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第10章 ホレック公国

第3話 色々と夢破れたり!

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目の前にはマッチョーズが並んでいる。

どう見てもボディビルダーの集まりに見えてしまう。肌は浅黒く日焼けした感じで、汗でテカっているのだ。

「また性懲りもなく女を攫いにきたのか!? フンッ」

え~と、リディアと俺の組み合わせで、さすがにそんな風には見えないだろう?

それに目の前には攫いたくなうような、ダイナマイトセクシーエロフは居ない。

「あのぉ、俺達は人攫いではありません。知り合いがいるか訪ねただけです」

「知り合いだとぅ! フンッ」

……なんで答えた後に、毎回違うポーズをするんだ?

「ああ、昔エクスと一緒に旅をしたリディアだ。エクスは死んだと聞いたけど、俺が知っているのはエクスの娘のエアルしかいない。エアルが居るならリディアが来たと伝えてくれ!」

「フハハハハ、エクス様と一緒に旅をしただとぉ。フンッ、ホレックの連中はそのような愚かなことを平気で言うのかぁ。フンッ、エクス様が昔旅に出られたと聞いて、そんな嘘をついているのであろう。フンッ、それがどれほど昔のことか知らないようだなぁ。フンッ」

こいつ4回もポージングを変えやがった。ハッキリ言って隙だらけじゃねえか!

俺としてはあまりオシリアイにはなりたくない気分だ……。

「う~ん、エアルも死んだんなら仕方ないかぁ。ご主人様どうしますか?」

リディアは相手のポージングはあまり気にせずに俺に尋ねてきた。

「勝手に祖母様を殺すな!」

先程の子供が後ろから顔を出して抗議してきた。

んっ、リディアの事を知っているエアルは生きているのか?

そしてこの子供が孫なのか!

「お嬢ちゃん、だったらリディアが来たと伝えてくれないかな?」

俺は相手が子供なので、できるだけ優しく頼んだ。子供は心なしか頬を赤くして、目が泳いでいる。

「私は母上から、リディアと言う人族の話は聞いたことはないのじゃ!」

あれっ、そっくりさん? 双子? それに母上?

先程からポージングを極めているマッチョさんの左右に、同じ顔の子供がもう一人現れた。話し方が少し違うが、双子にしか見えない。

「おっ、そういえばお前達エアルに似ているな。もしかしてエアルの子供と孫か?」

ちょいちょい、双子にそれは失礼じゃないかなぁ。

「母上様、祖母様、こいつらは危険です! フンッ、お下がりください! フンッ」

も、もしかして、本当に親子に孫ぉーーー!

「リ、リディア……、もしかしてダークエルフの女性はあれで大人なのか!?」

「ダーク? ああ、耳長族の事か。そうだぞ、正確には黒耳長族はこんな感じだ。ちなみに白耳長族は逆に男の体が小さいぞ」

夢のエロフ設定がこれほど早く崩壊するとは……。

「おい! フンッ、お前達だけで話をするんじゃない! フンッ」

マッチョ君が怒っている。しかし、そんなのは、もうどうでも良い……。

「なあ、あの最後に気合を入れて変な格好をするのも意味があるのか?」

先程からマッチョ君の動きに合わせて、他のマッチョーズもポージングをしている。ハッキリ言って鬱陶しい。

「あれか? あれは黒耳長族が警戒して相手を威嚇するときにする行動だよ。エクスがよくやっていたなぁ」

そうかぁ、個人的には嫌いだが、種族特有の習慣や風習なら拒絶する訳にはいかないよなぁ。

「いい加減にするのじゃ! エクス様の事を下賤なものが話すのは許せないのじゃ!」

耳長族の子供……、女性をよく見てみると、綺麗な顔立ちをしている。しかし、明らかに3頭身に近い、でこぼこのない体を見ると涙が滲んでくる。

か、彼女たちは悪くない! 勝手に俺が思い込んでいただけだ……。

何とか我慢しようとすると、余計に涙が零れそうになる。

「お、お母さま、彼は悲しそうにしています。少し話を聞いてみましょう?」

先程頬を赤らめた子供、……耳長族の女性がこちらの話を聞こうと言ってくれた。あれで、こんなマッチョな子供がいるのかと感心してしまう。

「何を言い出すのじゃ!? ホレックの者でないとしても、英雄エクス様の事を持ち出したのは許せん。勇者と共に戦った私達の祖先じゃぞ。許せるような事ではないのじゃ!」

「そうそう、俺も良く一緒に戦ったよぉ。あいつはいつも、「フンッ、この美しき筋肉を死ぬ前によく見ておけぇ! フンッ」と言っていたよなぁ」

リディアが楽しそうにポージングを交えて話す。しかし、耳長族の全員が驚いた表情を見せていた。

「なぜその言葉と秘伝の威嚇姿を知っているのだ!」

「んっ、よく見てたし、真似してたらエクスが細かく教えてくれたぞ?」

「う、嘘じゃ! それならエクス様の言い伝えに、教えた相手の名前が残っているはずじゃ! リディアという名前は聞いたことがない!」

「んっ、そういえばエクスに最後に会ったのは、リディアと名乗る前だったなぁ。あまり名乗りたくないが、その当時はドラ美と名乗っていたぞ。ハル姉もエクスのことはよく知っているぞ!」

「ドラ美……様!?」

「ハル様の名前も……!?」

親子姉妹が驚いて混乱している。

「何だったら、本当の姿を見せようか? テンマのお陰で変な目で見られなくなったからな!」

個人的には変身後の姿を一度は見たかったけど……。

リディアは俺の教えたポージングをしてから、ドラ美ちゃんに変身した。変身を始めて最初はそのまま服が引き延ばされ、破れる寸前に魔道具に収納された。服が無くなった時はほとんどドラゴン姿に代わっていた。

マッチョーズはドラ美ちゃんの姿を見て、怯えるように女性たちの後ろに隠れる。

おいおい、幼女の後ろに隠れるマッチョーズはあまりにも情けないぞ!

そして親子姉妹が土下座して謝罪を始める。

「ド、ドラ美様とは知らず失礼なことをして申し訳ありません!」

うん、見た目が10歳以下の幼女に土下座させるのは心が痛む……。

ドラ美ちゃんはドラゴン姿で変身ポーズをしてから、元の姿に戻った。俺は目を凝らしてその瞬間を見ていたが、変身する寸前に発した光に目がやられてしまった。

わ、分かっていたけど……。

ラッキースケベが起きる可能性を信じていたが、儚い夢であった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


さすがにファイアードラゴン姿のリディアを見た後では疑われることはなかった。

「ドラ美様、母のエアルは体調を崩していまして、村で寝ております」

そう言って村に案内するために前を歩くのは、エアルの娘のエリスである。そして双子姉妹のように仲良く横を歩くのはエリスの娘のエリカ、そして怯えるようにマッチョな体を小さくしているのが、エリカの息子のオクスである。

正直何が何だか良く分からない。名前も似ているが見た目も似ているのである。少し目を離すと、どちらがエリスでどちらがエリカなのか分からなくなる。

「え~と、他にも仲間たちが居るけど一緒で大丈夫かな?」

他の皆は『どこでも自宅』で待機している。

「……ドラ美様、彼はドラ美様の従者でしょうか?」

エリスが俺の質問に答えることなく、リディアに尋ねてた。

「おい、俺のご主人様に失礼なことを言わないでくれ! それに俺の名前はリディアだ、ドラゴンの姿に戻った時はドラ美ちゃんと呼んでくれ」

呼び方については、リディアと話し合って人の姿の時はリディアで、ドラゴンの姿の時はドラ美ちゃんと呼ぶことにしたのだ。一緒の名前で呼べば人の姿の時にリディアの正体がバレるからそう決めたのだ。

「「ご主人様!?」」

エリスとエリカは驚いている。

そして何故かエリカは俺を見るたびに頬を赤めるのはなぜだろう……?

幼女にそのような視線で見られるのはあまり嬉しくない。夢のダークエルフだったら最高だったのに……。
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