転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟

文字の大きさ
上 下
150 / 315
第9章 ホレック公国へ

第18話 リディア(ドラ美)

しおりを挟む
何故か緊迫した雰囲気の昼食になった。

ジジが取り敢えず5人分のオークカツサンドを出すと、すぐにリディア(ドラ美)が手を出そうとした。しかし、ハル兵衛が止めたのである。

『やめなさい! 恥ずかしいでしょ。全員の準備ができてから食べ始めるのよ』

ハル兵衛がお姉さんになっている!

リディア(ドラ美)もハル兵衛の言うことは聞くようだ。すでに手に持っていたオークカツサンドを皿に戻した。シル達のご飯も用意されると、可哀そうなのですぐに俺が声を掛ける。

「それじゃあ食べようか」

そう言い終わった瞬間にハル兵衛がスタートダッシュをかます。両手でオークカツサンドを手に持つと一気に食べ始めた。リディア(ドラ美)はタイミングが分からず、ハル兵衛が食べ始めるのを見て、慌てて食べ始めていた。

俺達もゆっくりと食べ始めると、すぐに食べ終わったリディア(ドラ美)がお代わりを要求してきた。

『何を言ってるのよぉ。今日のお昼はそれで終わりよ! それは5食分なのよ。もっと感謝して食べなさい!』

なんとハル兵衛は3食分をスタートダッシュしてすぐに食べ終えたが、残り2食分は味わうようにじっくりと食べているではないか。食事量が減って、考えて食べるようになったようだ。

「そ、そんなぁ~、俺にはあの量は1食分にもならないぜ!」

『愚か者ぉーーー! あの量を貯金するのにどれだけ私が苦労したと思ってるのぉ!』

リディア(ドラ美)は悲しそうに俯いたが、物欲しそうな目でハル兵衛の手元を見ている。ハル兵衛はその視線を感じたのか、リディア(ドラ美)に提案する。

『一切れなら譲ってあげても良いわよ!』

「本当か!?」

おお、ハル兵衛もお姉さんしているじゃないかぁ~!

『代わりにプリンを一個貰うわよ!』

うん、やはりハル兵衛はハル兵衛だな……。

プリンと聞いてリディア(ドラ美)は酷く動揺している。彼女もプリンを知っているようだ。そしてオークカツサンド<プリンだと理解はしているのだろう。しかし、目の前のオークカツサンド≒プリンになって悩んでいるようだ。

涎を垂れ流すナイスボディーの俺っ女《こ》……。

その正体がファイアードラゴンだと考えると複雑な気持ちになる。

ハル兵衛が見せびらかすように食べる姿はお姉さんとは思えない。

何とか食事も終わり、デザートが出てくるとまた同じことを始める。我慢できなくなったリディア(ドラ美)が一気に3個ともプリンを食べてしまうと、ハル兵衛は1個だけ一気に食べると、2個はスプーンで少しずつ味わいながら食べ始めた。

プリンは無条件でハル兵衛に食べさせていないし、プリン貯金はないから味わって食べているのだ。

リディア(ドラ美)は少し前のハル兵衛と同じだな……。

物欲しそうにハル兵衛を見つめていたリディア(ドラ美)だったが、何となく俺に視線を向け始める。

まるで俺を捕食するような目になっているぅ。

もしかして食事やプリンの配分を俺が握っていると気付いたのか!?

俺は気付かないふりをして食事を続けるのだった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


デザートが終わるとリビングに移動する。折角なので色々と聞いてみたい。

「なんで2人は姉妹なんだ? どお見ても種族が違うだろ」

俺は素直に疑問に思ったことを尋ねる。

「わははは、鑑定が弾かれたから、俺の真実の姿を知らないだろ!」

あれっ、本当に偽装しているのか?

もしかしてハル兵衛と同じミニオーク、……いやフェアリードラゴンなのか?

「え~と、ファイアードラゴンではなく実はフェアリードラゴンということなの?」

リディア(ドラ美)は大きく目を見開くと叫んだ。

「な、なんで人族がドラゴン種を鑑定できるんだ!」

あれれ、もしかしてファイアードラゴンで合っているの?

『馬鹿ねぇ、テンマはそれぐらいわかるわよ!』

何故かリディア(ドラ美)はブルブルと震えると、涙目で頼んできた。

「た、頼む! それは内緒にしてくれ!」

まあ、それは構わないけど……。

「わかった、秘密にするよ。でもドラゴン種は姉妹で種族が微妙に変化するんだぁ」

『そんな訳ないわよぉ。ドラ美とは本当の姉妹じゃないもの。昔ドラゴン素材を手に入れようとしたタケトが、ドラ美を討伐しに行ったのよ。その時にまだ幼かったドラ美が可哀想で、私が命乞いしたの。それ以来、年上の私が姉のようになっただけよぉ』

「ほほう、やはり本当に伝説のドラ美さんだったのですね。確か勇者は空を飛べない代わりに、勇者を乗せて飛び回っていたのがファイアードラゴンのドラ美さんですよね」

いつの間にかバルドーさんが戻ってきていた。

「悪かったなぁ。さすがに話せば普通に相手をしてくれないかと……」

まあ、そう思っても仕方ないよね。

「気にしないで下さい。人には話せないことや、言いたくないことの一つや二つあるものですよ」

「あ、ありがとう……」

意外に素直で可愛いところもあるじゃない!

「それよりこれからはどちらの名前で呼びましょうか?」

「リディアで!」『ドラ美で!』

本人はリディアが良くてハル兵衛がドラ美を推奨かぁ。

2人はお互いに目を合わせると、火花を散らしている。

『なんで大切な名前を捨てるのよ!』

「ユウコが亡くなる時に話を聞いたの! タケトが私の名前を簡単に決め過ぎたと後悔していたって。俺もなんとなく嫌な感じがしていたんだよ。他の奴らもたまに名前を呼んで笑っていたじゃねえか!」

笑う程じゃないけど、いい加減に名前をつけた気がするぅ。

俺もシルの名前は少し雑過ぎたと思った時期もあった。今ならシルモフが良いと……、シルモフをモフモフする。

うん、ダメだな!

やはり転生者に名づけは危険のような気がするぅ。

「本人が好きに決めれば良いんじゃないかな。俺はリディアと呼ぶよ!」

「ヤッター!」

『でも……』

ハル兵衛は納得できていないようだ。

「ハル兵衛、本人が嫌がる呼び方は止めてあげようよ!」

『そうね……、あれっ、嫌がる呼び方! テンマこそ私を変な呼び方をしてるじゃない!』

うん、その通りだ!

『わかったわ! 確かに本人が嫌がる呼び方は止めるべきね! リディア、これからもよろしくね!』

うんうん、いい感じに話はまとまった感じがする。

『テンマも変な呼び方を変えて頂戴よ!』

くっ、やはりそうなるかぁ。

しかし、この2択はどうするのかな?

「わかったよ。これからはハルと呼ぶことにするよ!」

『当然よ!』

「しかし、ハルさんや、これを見てくれるかい?」

俺はそう言うと折りたたんだメモ帳のような物を、アイテムボックスから出してハルに見せる。

『それは私のオークカツ貯金の通帳じゃないの!』

「いや、これはハルさんの通帳じゃなく、ハル兵衛さんの通帳です。上に名前が書いてあるだろ?」

ハルは信じられないものを見たように俺を見つめる。

「テンマ銀行のオークカツ貯金は、名前が変わると引出も貯蓄もできないんだ。ハル兵衛さんが居なくなったので、これは不要みたいだね」

『ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私が必死に貯めたのよぉ。勝手に没収しないでよ。名前が変わっても私は私だし、テンマ以外はハルと呼んでいたじゃない!』

「申し訳ない。通帳の名義は俺が呼ぶ名前にすると、テンマ銀行の規則になっているんだ……」

『そ、そんなのあり得ないわ!』

うん、あり得ないね。

「ごめんなさい」

『だって私が必死に貯めたオークカツよ!』

「本当にすみません。規則は曲げられません!」

『ま、まだ、284枚は残っていたはずよ!』

変に記憶力はいいなぁ。

「大変ご苦労様でした。ハル兵衛さんが居なくなったら、テンマ銀行を閉鎖します」

『えっ、それじゃあ、今後のオークカツは……?』

「新たに第2テンマ銀行を設立します! 第2テンマ銀行ではオーク1頭で、オークカツは1枚になっております! テンマ銀行のオーク1頭でオークカツ3枚は大損だったもので、我々も助かります!」

『そ、そんなぁ~!』

冗談のつもりだったが、何故信じてるのかな?

『わ、分かったわ! テンマだけハル兵衛と呼んでいいわ!』

おっとぉ、本当に妥協したぁ!

「お、お姉さん、騙されてるわよ! オーク1頭でオークカツ3枚なんて絶対に変だぞ!」

『ドラ、リディア、あなたならオーク1頭とオークカツ3枚、どちらを選ぶの?』

「……オークカツ3枚」

『そうよ! サクサクジュワ~のオークカツ3枚なら妥当よ!』

うん、ハル兵衛株が完全に発症しているようだ。

「わ、私もテンマ銀行に口座をお願い!」

新たにリディアと言う顧客を獲得できそうだが、もしかして一緒に来るつもりなの!
しおりを挟む
感想 437

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。 どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。 そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。 ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。 スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。 ※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。