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第9章 ホレック公国へ
第7話 キースの勘違い
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キースは朝早くから今後の計画を考えていた。
昨日見た2人の女性が頭から離れないのだ。特に自分より年上だと思う方は、王都でも見たことのないほどの女性だった。
仕事以上に色々と考えを巡らす。
あれほどの女性がD級冒険者のメイド? あり得ない!
どう考えても不自然だと思った。部屋にいた女性たちはメイド服ではなかった。
あの少年が貴族家の者だとも思えない。
D級冒険者なら成人しているはずである。そして少年は成人したばかりに思えたのだ。そうなると自分と大して年齢が違わないから、貴族家の者なら王都の学校であっているはずだ。自分と同年代の貴族家の男子で、自分が知らないということはありえないと考えたのだ。
しかし、代官と名乗っても相手は敬う感じも見せなかった。
もしかしたらあの女性が貴族家の令嬢でお忍びなのか!
キースの頭の中ではアンナがお忍びの貴族令嬢でジジがそのお付き、テンマは従者という構図が出来上がった。
しかし、あれほど美しいの令嬢の噂は聞いたことがない……。
そこで考えたのが公にできないような生まれ、もしくは下位貴族の令嬢で、王都には来たことがないと考えた。
貴族家の娘なら王都の学校に入らないことも多いのだ。特に地方の下級貴族ならよくある話だ。
それなら伯爵家の自分なら相手は文句を言うまいと結論を出した。
さすがに下級だとしても貴族家の令嬢なら、妾にするのは難しい。しかし、あれほどの女性である。妻にして付き人を妾にすればいいと考える。
しかし、昨晩は相手に警戒されたのか夕食に食堂に彼女は現れなかった。警戒されたのは仕方ない。相手も自分のことをベルタ伯爵家の者とは知らなかったはずだ。その辺を話せば相手はもう少し態度を変えるだろう。
そして問題はあの執事である。父からお目付け役として付けられているのは分かっている。
半年前に商人の娘を妾にしたことに父が怒っていることは知っていた。父は怒りながらも仕方なく商人をベルタ伯爵家に出入りさせてくれたのも知っている。
これ以上、父を怒らせるのはまずいが、多少強引でも妻に迎えるとなれば納得してくれるはずだと思った。
しかし、その多少強引な行動を、あの執事は許してくれないだろう。
キースは朝の訓練をすると執事に話して、兵士を2人だけ連れて徒歩で宿に向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
速足で歩いて宿に到着して従業員に声を掛けると、彼女が食堂で朝食を食べているのを聞きだした。
すぐに食堂に向かうと入口で宿の主人に止められる。
「お止めください! お客様は食事中です!」
食事中に相手の許可なく訪ねるのが非常識なのは分かっている。
しかし、あの執事が気付いてすぐに追いかけてくるかもしれないのだ。多少強引であろうと自分がベルタ伯爵家の者だと伝えれば、何とかなるだろう。
「ははは、大丈夫だよ。昨晩の謝罪に来ただけだから」
宿の主人には笑顔で話すと、強引に食堂の中に入る。
奥のテーブルに彼女はいた。しかし、報告で聞いた通りメイド服を着ている。それも見たことのないデザインで、女性の美しさを引き出していた。
あ、あのメイド服も屋敷で採用しよう!
そう考えながら、真直ぐに彼女の方へ向かっていく。もう少しというところで目の前に老齢の男が立ちふさがる。
「何か御用でしょうか?」
明らかに執事と分かる男が目の前に現れた。そして自分が女性たちに気を取られ、彼や見知った冒険者も一緒に居ることにようやく気が付いた。
彼女が執事まで連れていることに驚いた。そして、見知った冒険者が居ることで、まずいと考える。見知った冒険者はこの町で唯一のB級冒険者で、この町の冒険者をまとめているような存在だったからだ。
魔物の多い辺境の町としては、冒険者とは仲良くしなければ町の維持に問題が出る。
しかし、キースは多少強引でも謝罪と家名を出すだけなら問題ないと判断した。
「これは失礼した。昨晩彼女に失礼なことをしたので謝罪に来たのだ。私はベルタ伯爵の息子でこの町の代官を務めるキースだ」
謝罪の意思を伝えたし、家名も名乗ることもできたので安心する。これで相手も委縮して話ができると思った。
「ほほう、私の聞いた話では彼女にではなく、私の主へ失礼なことをしたと思っていたのですがねぇ。それも堂々とベルタ伯爵家の家名を名乗って、食事中に許可なく尋ねてくるとは……。
あなたの行いがベルタ伯爵家としての行動と理解してよろしいのですな?」
執事からの予想外の反撃にキースは動揺する。
キースの中ではすでにあの少年は従者と思い込んでいた。しかし、相手はあくまでその設定を続けるようだ。そうなると更に失礼をしたことになる。
そして目の前の執事が、ベルタ伯爵家の家名に全く動じていないことに混乱する。
伯爵家より上の貴族家の令嬢なのか!?
さらに執事をよく見ると、明らかにただ者ではない雰囲気を漂わせている。
まさか他国の貴族家の令嬢か? いや、王族、王女なのか!?
キースは見当違いの勘違いを続ける。
しかし、勘違いだが、その勘違いだとすると、家名を出したことで彼女の攻略が難しくなってしまった。自分の行動をベルタ伯爵家としての行動とされる。強引に何かして失礼なことをすれば、ベルタ伯爵家の責任になるということだからだ。
「い、いや、また失礼をしたようだ。代官としての仕事が忙しく、何とか謝罪しようしたのだが、今しか時間が取れなかったのだ。また失礼なことをしてしまったようだ。改めて謝罪をさせてほしい」
何とか取り繕ったが、見知った冒険者は気の毒そうな顔で自分を見ている。
「ふむ、謝罪は受け入れますが、私達にかかわらないようにしていただけますか?
私達は数日この町に滞在する予定でしたが、昨晩の話を聞いてすぐにも出立しようかと相談していたのです。代官殿が不必要な干渉を止めていただけるなら、我々は予定通りの行動ができます」
キースはそんな約束をしようとは思わなかったが、彼女が旅立つと完全に縁が切れると思った。しかし、約束しても代官の仕事で偶然会うなら、相手も文句を言わないだろうとすぐに思いつく。
「わかった。迷惑を掛けて、そちらの予定を変えさせるのは申し訳ない。干渉しないことは約束しよう。ただ、代官としての仕事の場合は許して欲しい」
「はい、それでお願いします」
相手の執事が了承したので、キースは内心で上手くいったと思った。彼女に向かって頭を下げてから食堂を出るのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
少年代官をバルドーさんが軽くあしらって、追い払ってくれたのでホッとする。
しかし、なんであいつは俺ではなくアンナに頭を下げたんだ?
不思議に思っているとバルドーさんが話し始める。
「あの代官は何か勘違いしているか、想像以上に女性に対しての思いが強いのでしょう。テンマ様が主だと話しているのに、アンナに頭を下げるのはそうとしか考えられませんねぇ」
確かにその通りだと思う。どんな勘違いをしていたのか分からないが、彼は少し頭がおかしいのかと思ってしまった。
それより気になったのは、バルドーさんが王都ではアンナ様と呼び始めていたが、王都を離れて呼び捨てに戻っていることだ。
フリージアさんがいなければ、そうなるよねぇ~。
アンナは気にもしていないようだから問題はないのだが……。
「テンマ様、彼はまだ代官として理由を付けて絡んでくる可能性はあります。しかし、さすがに非常識な行動はもうできないでしょう。もう少しだけ情報収集もしたいですし、ジジのためにせめてもう1日この町に滞在しませんか?」
バルドーさんに言われて、彼が代官として絡んでくると思っていなかったので驚いた。てっきり少年代官の問題は片付いたと思っていた。彼の最後の言葉にそんな意味があるとは思わなかったのだ。
それでもそれほど問題はないと判断する。
「それじゃあ、もう1日だけこの町に滞在しよう。悪いけど夕食の時はバルドーさんも一緒に居てくれる?」
「わかりました。私はもう少し旅のために情報を集めておきます。夕食までには戻るようにします」
筋肉冒険者もどこか最初とは雰囲気が変わったが、嬉しそうにしている。
ジジもピピも嬉しそうにしているから良かったと思った。
昨日見た2人の女性が頭から離れないのだ。特に自分より年上だと思う方は、王都でも見たことのないほどの女性だった。
仕事以上に色々と考えを巡らす。
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どう考えても不自然だと思った。部屋にいた女性たちはメイド服ではなかった。
あの少年が貴族家の者だとも思えない。
D級冒険者なら成人しているはずである。そして少年は成人したばかりに思えたのだ。そうなると自分と大して年齢が違わないから、貴族家の者なら王都の学校であっているはずだ。自分と同年代の貴族家の男子で、自分が知らないということはありえないと考えたのだ。
しかし、代官と名乗っても相手は敬う感じも見せなかった。
もしかしたらあの女性が貴族家の令嬢でお忍びなのか!
キースの頭の中ではアンナがお忍びの貴族令嬢でジジがそのお付き、テンマは従者という構図が出来上がった。
しかし、あれほど美しいの令嬢の噂は聞いたことがない……。
そこで考えたのが公にできないような生まれ、もしくは下位貴族の令嬢で、王都には来たことがないと考えた。
貴族家の娘なら王都の学校に入らないことも多いのだ。特に地方の下級貴族ならよくある話だ。
それなら伯爵家の自分なら相手は文句を言うまいと結論を出した。
さすがに下級だとしても貴族家の令嬢なら、妾にするのは難しい。しかし、あれほどの女性である。妻にして付き人を妾にすればいいと考える。
しかし、昨晩は相手に警戒されたのか夕食に食堂に彼女は現れなかった。警戒されたのは仕方ない。相手も自分のことをベルタ伯爵家の者とは知らなかったはずだ。その辺を話せば相手はもう少し態度を変えるだろう。
そして問題はあの執事である。父からお目付け役として付けられているのは分かっている。
半年前に商人の娘を妾にしたことに父が怒っていることは知っていた。父は怒りながらも仕方なく商人をベルタ伯爵家に出入りさせてくれたのも知っている。
これ以上、父を怒らせるのはまずいが、多少強引でも妻に迎えるとなれば納得してくれるはずだと思った。
しかし、その多少強引な行動を、あの執事は許してくれないだろう。
キースは朝の訓練をすると執事に話して、兵士を2人だけ連れて徒歩で宿に向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
速足で歩いて宿に到着して従業員に声を掛けると、彼女が食堂で朝食を食べているのを聞きだした。
すぐに食堂に向かうと入口で宿の主人に止められる。
「お止めください! お客様は食事中です!」
食事中に相手の許可なく訪ねるのが非常識なのは分かっている。
しかし、あの執事が気付いてすぐに追いかけてくるかもしれないのだ。多少強引であろうと自分がベルタ伯爵家の者だと伝えれば、何とかなるだろう。
「ははは、大丈夫だよ。昨晩の謝罪に来ただけだから」
宿の主人には笑顔で話すと、強引に食堂の中に入る。
奥のテーブルに彼女はいた。しかし、報告で聞いた通りメイド服を着ている。それも見たことのないデザインで、女性の美しさを引き出していた。
あ、あのメイド服も屋敷で採用しよう!
そう考えながら、真直ぐに彼女の方へ向かっていく。もう少しというところで目の前に老齢の男が立ちふさがる。
「何か御用でしょうか?」
明らかに執事と分かる男が目の前に現れた。そして自分が女性たちに気を取られ、彼や見知った冒険者も一緒に居ることにようやく気が付いた。
彼女が執事まで連れていることに驚いた。そして、見知った冒険者が居ることで、まずいと考える。見知った冒険者はこの町で唯一のB級冒険者で、この町の冒険者をまとめているような存在だったからだ。
魔物の多い辺境の町としては、冒険者とは仲良くしなければ町の維持に問題が出る。
しかし、キースは多少強引でも謝罪と家名を出すだけなら問題ないと判断した。
「これは失礼した。昨晩彼女に失礼なことをしたので謝罪に来たのだ。私はベルタ伯爵の息子でこの町の代官を務めるキースだ」
謝罪の意思を伝えたし、家名も名乗ることもできたので安心する。これで相手も委縮して話ができると思った。
「ほほう、私の聞いた話では彼女にではなく、私の主へ失礼なことをしたと思っていたのですがねぇ。それも堂々とベルタ伯爵家の家名を名乗って、食事中に許可なく尋ねてくるとは……。
あなたの行いがベルタ伯爵家としての行動と理解してよろしいのですな?」
執事からの予想外の反撃にキースは動揺する。
キースの中ではすでにあの少年は従者と思い込んでいた。しかし、相手はあくまでその設定を続けるようだ。そうなると更に失礼をしたことになる。
そして目の前の執事が、ベルタ伯爵家の家名に全く動じていないことに混乱する。
伯爵家より上の貴族家の令嬢なのか!?
さらに執事をよく見ると、明らかにただ者ではない雰囲気を漂わせている。
まさか他国の貴族家の令嬢か? いや、王族、王女なのか!?
キースは見当違いの勘違いを続ける。
しかし、勘違いだが、その勘違いだとすると、家名を出したことで彼女の攻略が難しくなってしまった。自分の行動をベルタ伯爵家としての行動とされる。強引に何かして失礼なことをすれば、ベルタ伯爵家の責任になるということだからだ。
「い、いや、また失礼をしたようだ。代官としての仕事が忙しく、何とか謝罪しようしたのだが、今しか時間が取れなかったのだ。また失礼なことをしてしまったようだ。改めて謝罪をさせてほしい」
何とか取り繕ったが、見知った冒険者は気の毒そうな顔で自分を見ている。
「ふむ、謝罪は受け入れますが、私達にかかわらないようにしていただけますか?
私達は数日この町に滞在する予定でしたが、昨晩の話を聞いてすぐにも出立しようかと相談していたのです。代官殿が不必要な干渉を止めていただけるなら、我々は予定通りの行動ができます」
キースはそんな約束をしようとは思わなかったが、彼女が旅立つと完全に縁が切れると思った。しかし、約束しても代官の仕事で偶然会うなら、相手も文句を言わないだろうとすぐに思いつく。
「わかった。迷惑を掛けて、そちらの予定を変えさせるのは申し訳ない。干渉しないことは約束しよう。ただ、代官としての仕事の場合は許して欲しい」
「はい、それでお願いします」
相手の執事が了承したので、キースは内心で上手くいったと思った。彼女に向かって頭を下げてから食堂を出るのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
少年代官をバルドーさんが軽くあしらって、追い払ってくれたのでホッとする。
しかし、なんであいつは俺ではなくアンナに頭を下げたんだ?
不思議に思っているとバルドーさんが話し始める。
「あの代官は何か勘違いしているか、想像以上に女性に対しての思いが強いのでしょう。テンマ様が主だと話しているのに、アンナに頭を下げるのはそうとしか考えられませんねぇ」
確かにその通りだと思う。どんな勘違いをしていたのか分からないが、彼は少し頭がおかしいのかと思ってしまった。
それより気になったのは、バルドーさんが王都ではアンナ様と呼び始めていたが、王都を離れて呼び捨てに戻っていることだ。
フリージアさんがいなければ、そうなるよねぇ~。
アンナは気にもしていないようだから問題はないのだが……。
「テンマ様、彼はまだ代官として理由を付けて絡んでくる可能性はあります。しかし、さすがに非常識な行動はもうできないでしょう。もう少しだけ情報収集もしたいですし、ジジのためにせめてもう1日この町に滞在しませんか?」
バルドーさんに言われて、彼が代官として絡んでくると思っていなかったので驚いた。てっきり少年代官の問題は片付いたと思っていた。彼の最後の言葉にそんな意味があるとは思わなかったのだ。
それでもそれほど問題はないと判断する。
「それじゃあ、もう1日だけこの町に滞在しよう。悪いけど夕食の時はバルドーさんも一緒に居てくれる?」
「わかりました。私はもう少し旅のために情報を集めておきます。夕食までには戻るようにします」
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