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第9章 ホレック公国へ
第6話 筋肉冒険者の話
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翌朝、地図スキルで宿の中を確認しても、少年代官の姿は見当たらなかった。少し安心して1階の食堂に向かう。最悪、今日宿を出ることになるかもしれないので、せめて朝食だけでも宿で食べてみようと思ったのである。
ジジとアンナはいつものメイド服で食堂に向かう。ピピはすでに体を動かしやすい服に着替えていた。
1階の食堂で席に着き朝食を頼む。朝食が来る前に宿の主人がやってきた。
「昨晩は大変失礼しました」
宿の主人は本当に申し訳なさそうに謝罪した。
「いつも宿泊客を代官は監視しているのですか?」
俺は疑問に思ったことを宿の主人に尋ねる。あんな風に代官が横暴だと町に来る人が減ると思ったのだ。
「いえ、……あの代官はこの領地の領主であるベルタ伯爵様の次男なんです。領民にも優しく先頭に立って魔物を討伐するなど非常に優秀なお方なんですが……」
宿の主人の話を聞いて不思議に思う。聞いた話と昨晩の少年代官の行動があわないのだ。
「そんな風には見えなかったなぁ」
正直に感想を漏らす。宿の主人は迷った感じで話し始めた。
「あの代官のキース様にはひとつだけ問題がありまして……。ですから早めに町を出られたほうがよろしいと思います」
宿の主人も相手が町の代官であり、領主の次男となれば本当のことでも悪く言えないのだろう。
ふぅ~、仕方ない町を出るかなぁ……。
「おはようございます」
そこにバルドーさんがご機嫌の様子で姿を現した。
「おはよう」
バルドーさんの後ろには筋肉ムキムキの冒険者の男が一緒にいた。それも来た方向から考えると、バルドーさんと筋肉冒険者は我々と同じ宿に泊まっていたのだろう。
まさか同じ宿でバッチ……、深く考えるのは止めよう。
「彼はこの辺で冒険者活動をしている冒険者です。周辺の魔物の状況を教えてもらいました」
どんな風に教えて……、深く考えるのは止めよう!
「そうですか……。実は早めに町を出立しようと思っていたんです」
そう話すと、バルドーさん以上に後ろの冒険者が悲しそうな表情になった。
ここにもバルドーさんの信奉者が……、考えるな!
「そうですかぁ。しかし、数日はこの町で情報を集めてから、出立する予定のはず。何か御座いましたか?」
バルドーさんの目つきが鋭くなり、宿の主人を睨みつける。宿の主人は焦ったように頭を下げると逃げるように戻っていった。
「昨晩代官が挨拶に部屋に来まして……」
俺は昨晩のことをバルドーさんに説明する。すると後ろにいた冒険者が話した。
「ああ、それは代官のいつもの病気だなぁ」
「ほほう、あなたは事情を知っているようですね。申し訳ありませんが私の主であるテンマ様に話してもらえませんか?」
「あ、あるじ!? ま、まあ別に話すのは問題ないけど……」
俺を主だとバルドーさんが言ったので、筋肉冒険者は驚いたようだ。
「テンマ様、彼も一緒に朝食を食べながら話をしてもらってよろしいでしょうか? 実は周辺の魔物の状況も彼から話を聞いてもらおうと思っていたのです」
俺が了承するとバルドーさんと筋肉冒険者も同じテーブルの席に着いた。宿の従業員に同じ朝食を追加で頼むのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
朝食が揃うとバルドーさんが食事をしながら筋肉冒険者に尋ねる。すると筋肉冒険者は少年代官のことを想像以上によく知っていた。
少年代官はこの町に代官として来てから年齢以上に優秀な代官だったが、唯一の欠点が女性にだらしないことのようだ。
「それも信じられないぐらい豹変するんだ。前に冒険者も一緒に周辺の魔物討伐に出たのだが、代官とか貴族家とか関係なく、気さくに冒険者と交流しながら兵士と冒険者をまとめていたよ。魔物討伐も大成功で、冒険者にも報酬とは別に報奨金を出してくれて、良い代官だと冒険者も言っていたんだがなぁ」
筋肉冒険者はその時のことを思い出したように話した。
「魔物討伐の話を事前に聞いていた商人が領都から来ていてなぁ。たしかこの宿に泊まっていたんだよ。その商人は気合を入れて商談で来ていたんだが、一緒に一人娘を連れてきていたんだ……」
彼はその時のことを直接見ていたらしい。
「キース様は一目でその娘を気に入って、商人に娘をもらいたいと申し出たのだが、妻ではなく妾にすると言ってなぁ。商人も一人娘を嫡男でもない伯爵家の次男に妾にはできないと断ったんだよ。それからが凄かったよ!」
「何が凄かったのですか?」
バルドーさんが尋ねる。
「それまで代官とか伯爵家とかそれほど前面に出さなかったのに、まるで人が変わったように露骨に使ってきたんだ。それに金や人脈まで使ってな……」
筋肉冒険者は残念そうに話した。彼もその変わりようにショックを受けたようだ。
「結局、一人娘は妾として代官屋敷に入っているよ。表向きはメイドとして雇っている形にはなっているがな。聞いた話でだが、その商人は領都で伯爵家に出入りできるようになり、この町の魔物素材も一括でその商人が買い上げているらしい。娘に子供ができたら商会の跡取りとする約束もしているとも聞いた。結果的には商人も娘も納得していると聞いているが……」
女性を手に入れるために、権力や人脈を使っているようだ。それでも多少強引でも相手が納得しているなら、俺はとやかく言うつもりはもちろんない。
それ以外にも町の娘が2人ほど妾になっているらしい。町でも美人だと評判の娘達で、すぐに少年代官の女性に対する執着が異常だと町の人達も気付いたようだ。
それでも町で気に入るような娘は既にいなくなったようで、外から来る女性を門番に報告させていて、それで昨晩の挨拶になったようだ。
「ふむ、微妙な感じですなぁ。代官が最低限のルールを守るのであれば、面倒ではありますが問題はありません。代官がどのような条件を出そうとも、テンマ様が2人を手放すことはないでしょうから」
思わず頷く。数日程度なら拒絶すれば済むのである。
「問題は断られて、ルールを無視しても手に入れようとした時ですなぁ。2人の美しさならそうなりそうな気がします」
改めて2人を見る。
ジジは驚くほど綺麗になり始めている。最初の頃から胸は大きめだったが、それ以外は痩せていてどこかアンバランスな感じがしていた。しかし、肉付きも良くなり、バランスが取れたことで非常に魅力的な女性になってきた。まだ女の子と言った感じが強いが、最近は色々自分でできるようになり表情も明るくなり、可愛い系の美人さんになった。
アンナは元々別次元の美しさを持っている。元女神の彼女は貴族令嬢や王女よりも気品も備えている。言動や行動により俺の評価はずいぶんと減点になっているが、それを知らない相手が見た目だけで判断すると、聖女と勘違いしても不思議ではない。
まあ、アンナは実際に聖女扱いされたぐらいである。
「やはり今日中に町を出立しようか? ジジが地元の料理を覚えたがっていたから、もう少し滞在しようかと迷ったんだけどなぁ」
ジジが残念そうな顔をする。ジジは朝食を食べながらも一所懸命料理を研究していたのだ。バルドーさんもそんなジジを見て申し訳なさそうに話した。
「確かに困りましたなぁ。代官程度は問題ないのですがねぇ。実際に途中で私達に絡んだ代官はすでに一族ごと王都を追放されていますからなぁ」
まてまて、そんな話を俺は聞いてないぞぉ!
たったあれだけのことで一族追放……。
絶対に俺達が理不尽の塊じゃねえかぁ!
「問題はベルタ伯爵ですなぁ。彼は非常に優秀で国王陛下の信頼の厚い人物です。嫡男の息子も優秀で宰相閣下の下で働いています。ベルタ伯爵家が廃絶となれば国全体に影響がでそうですなぁ」
いやいや、なんで今回のことで国に影響出るんだよぉ。
筋肉冒険者も呆気に取られて固まっている。
うん、逃げよう! 面倒事は全面回避だぁ!
すると食堂の入口から騒ぎが聞こえてくる。
「お止めください! お客様は食事中です!」
宿の主人が必死にあの少年代官を引き止めている。
「ははは、大丈夫だよ。昨晩の謝罪に来ただけだから」
食事中の相手に謝罪なんて非常識だろ!?
バルドーさんを見ると微笑んでいるのだが、何故か危険な雰囲気を漂わせているのだった。
ジジとアンナはいつものメイド服で食堂に向かう。ピピはすでに体を動かしやすい服に着替えていた。
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宿の主人は本当に申し訳なさそうに謝罪した。
「いつも宿泊客を代官は監視しているのですか?」
俺は疑問に思ったことを宿の主人に尋ねる。あんな風に代官が横暴だと町に来る人が減ると思ったのだ。
「いえ、……あの代官はこの領地の領主であるベルタ伯爵様の次男なんです。領民にも優しく先頭に立って魔物を討伐するなど非常に優秀なお方なんですが……」
宿の主人の話を聞いて不思議に思う。聞いた話と昨晩の少年代官の行動があわないのだ。
「そんな風には見えなかったなぁ」
正直に感想を漏らす。宿の主人は迷った感じで話し始めた。
「あの代官のキース様にはひとつだけ問題がありまして……。ですから早めに町を出られたほうがよろしいと思います」
宿の主人も相手が町の代官であり、領主の次男となれば本当のことでも悪く言えないのだろう。
ふぅ~、仕方ない町を出るかなぁ……。
「おはようございます」
そこにバルドーさんがご機嫌の様子で姿を現した。
「おはよう」
バルドーさんの後ろには筋肉ムキムキの冒険者の男が一緒にいた。それも来た方向から考えると、バルドーさんと筋肉冒険者は我々と同じ宿に泊まっていたのだろう。
まさか同じ宿でバッチ……、深く考えるのは止めよう。
「彼はこの辺で冒険者活動をしている冒険者です。周辺の魔物の状況を教えてもらいました」
どんな風に教えて……、深く考えるのは止めよう!
「そうですか……。実は早めに町を出立しようと思っていたんです」
そう話すと、バルドーさん以上に後ろの冒険者が悲しそうな表情になった。
ここにもバルドーさんの信奉者が……、考えるな!
「そうですかぁ。しかし、数日はこの町で情報を集めてから、出立する予定のはず。何か御座いましたか?」
バルドーさんの目つきが鋭くなり、宿の主人を睨みつける。宿の主人は焦ったように頭を下げると逃げるように戻っていった。
「昨晩代官が挨拶に部屋に来まして……」
俺は昨晩のことをバルドーさんに説明する。すると後ろにいた冒険者が話した。
「ああ、それは代官のいつもの病気だなぁ」
「ほほう、あなたは事情を知っているようですね。申し訳ありませんが私の主であるテンマ様に話してもらえませんか?」
「あ、あるじ!? ま、まあ別に話すのは問題ないけど……」
俺を主だとバルドーさんが言ったので、筋肉冒険者は驚いたようだ。
「テンマ様、彼も一緒に朝食を食べながら話をしてもらってよろしいでしょうか? 実は周辺の魔物の状況も彼から話を聞いてもらおうと思っていたのです」
俺が了承するとバルドーさんと筋肉冒険者も同じテーブルの席に着いた。宿の従業員に同じ朝食を追加で頼むのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
朝食が揃うとバルドーさんが食事をしながら筋肉冒険者に尋ねる。すると筋肉冒険者は少年代官のことを想像以上によく知っていた。
少年代官はこの町に代官として来てから年齢以上に優秀な代官だったが、唯一の欠点が女性にだらしないことのようだ。
「それも信じられないぐらい豹変するんだ。前に冒険者も一緒に周辺の魔物討伐に出たのだが、代官とか貴族家とか関係なく、気さくに冒険者と交流しながら兵士と冒険者をまとめていたよ。魔物討伐も大成功で、冒険者にも報酬とは別に報奨金を出してくれて、良い代官だと冒険者も言っていたんだがなぁ」
筋肉冒険者はその時のことを思い出したように話した。
「魔物討伐の話を事前に聞いていた商人が領都から来ていてなぁ。たしかこの宿に泊まっていたんだよ。その商人は気合を入れて商談で来ていたんだが、一緒に一人娘を連れてきていたんだ……」
彼はその時のことを直接見ていたらしい。
「キース様は一目でその娘を気に入って、商人に娘をもらいたいと申し出たのだが、妻ではなく妾にすると言ってなぁ。商人も一人娘を嫡男でもない伯爵家の次男に妾にはできないと断ったんだよ。それからが凄かったよ!」
「何が凄かったのですか?」
バルドーさんが尋ねる。
「それまで代官とか伯爵家とかそれほど前面に出さなかったのに、まるで人が変わったように露骨に使ってきたんだ。それに金や人脈まで使ってな……」
筋肉冒険者は残念そうに話した。彼もその変わりようにショックを受けたようだ。
「結局、一人娘は妾として代官屋敷に入っているよ。表向きはメイドとして雇っている形にはなっているがな。聞いた話でだが、その商人は領都で伯爵家に出入りできるようになり、この町の魔物素材も一括でその商人が買い上げているらしい。娘に子供ができたら商会の跡取りとする約束もしているとも聞いた。結果的には商人も娘も納得していると聞いているが……」
女性を手に入れるために、権力や人脈を使っているようだ。それでも多少強引でも相手が納得しているなら、俺はとやかく言うつもりはもちろんない。
それ以外にも町の娘が2人ほど妾になっているらしい。町でも美人だと評判の娘達で、すぐに少年代官の女性に対する執着が異常だと町の人達も気付いたようだ。
それでも町で気に入るような娘は既にいなくなったようで、外から来る女性を門番に報告させていて、それで昨晩の挨拶になったようだ。
「ふむ、微妙な感じですなぁ。代官が最低限のルールを守るのであれば、面倒ではありますが問題はありません。代官がどのような条件を出そうとも、テンマ様が2人を手放すことはないでしょうから」
思わず頷く。数日程度なら拒絶すれば済むのである。
「問題は断られて、ルールを無視しても手に入れようとした時ですなぁ。2人の美しさならそうなりそうな気がします」
改めて2人を見る。
ジジは驚くほど綺麗になり始めている。最初の頃から胸は大きめだったが、それ以外は痩せていてどこかアンバランスな感じがしていた。しかし、肉付きも良くなり、バランスが取れたことで非常に魅力的な女性になってきた。まだ女の子と言った感じが強いが、最近は色々自分でできるようになり表情も明るくなり、可愛い系の美人さんになった。
アンナは元々別次元の美しさを持っている。元女神の彼女は貴族令嬢や王女よりも気品も備えている。言動や行動により俺の評価はずいぶんと減点になっているが、それを知らない相手が見た目だけで判断すると、聖女と勘違いしても不思議ではない。
まあ、アンナは実際に聖女扱いされたぐらいである。
「やはり今日中に町を出立しようか? ジジが地元の料理を覚えたがっていたから、もう少し滞在しようかと迷ったんだけどなぁ」
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「確かに困りましたなぁ。代官程度は問題ないのですがねぇ。実際に途中で私達に絡んだ代官はすでに一族ごと王都を追放されていますからなぁ」
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