上 下
131 / 315
第8章 旅立ちへ

第10話 旅立ち

しおりを挟む
「聞いてなーーーい!」

土地神フリージアちゃんが絶叫して床を転げまわり駄々をこねる。

な、なんで、子供の姿なのぉ!

バルドーさんの顔色から旅立ちの延期は無理と判断して、昨日夜に計画通り作業を終わらせた。そしてバルドーさんが昨日最後の報告を王宮にして、追加区画は王宮とエクレアさんが活用法を話し合うことになった。

礼拝堂も大司教に任せたことで、大司教や教会の人間が土地神だと大騒ぎして大変だったらしい。

反対にバルドーさんの顔色が良くなった気がする。

明日出発するのでみんなで一緒に夕飯をすませて、今後の予定をみんなで最終確認していた。
そこに大司教から逃げ出してきたフリージアさんが合流してきたのである。最初は大司教のことの文句を言い始めたのだが、アンナに叱られて大人しくなった。

すでに土地神のことはみんなに伝えてあるのでみんな普通にフリージアさんをバルドーさんの母親と扱っていた。

みんなの順応力に驚いていたのだが、明日旅に出るとフリージアさんに伝えたら今の状況になったのである。

「母上、テンマ様がどうしても魚を食べたいというので私も仕方ないのです!」

おうふ、完全に俺に責任を押し付けてるぅ!

それにフリージアさんの姿をみんな気にしないのぉ!

見た目が5歳くらいに幼児化したフリージアさんを誰も気にしていない。

「だってぇ~、仕事が落ち着いたらテンマちゃんと遊べると思ってたのにぃ~!」

口をとがらせバルドーさんに文句を言うフリージアさんも可愛い。しかし、見た目はおじいちゃんに文句を言う孫の構図になっている。

それより今度はテンマちゃんかよ!

「いいですか母上、それほど長く旅をするわけではありません。また、すぐに会えるのですよ」

「イヤっ!」

頬を膨らませ文句を言うと、何故か俺に近づいて膝の上に乗る。

なんか繋がりがきたぁ~!

幼児モードで実体化したフリージアさんが膝の上に乗って抱きついてくる。

くっ、なぜか父性が溢れるぅ~!

フリージアさんに生命力を吸われると繋がった感覚がして、その時の感情が増幅されるようだ。大人のフリージアさんだと危険な魅了だった。しかし、この幼児フリージアには父性が溢れるようだ。

ど、どうせ吸われるのなら大人のフリージアさんが……。

「いい加減にしなさい!」

アンナ、助かったぁ~!

「わ、わかったわよぉ~。だけどすぐに帰ってきてよね!」

くっ、半透明でなければ、思わず抱きしめて「うん」と言いそうになる。

「ど、努力するよ」

暫くは帰ってくる気はありません!

「なら、3日で帰れるわね! 飛べば片道1日も掛からないでしょ。翌日はお魚食べて、その次の日は帰れるわね」

「なに、本当か!?」

おいおい、ドロテアさんまで参戦するんじゃねぇ!

「それは無理です! 今回はゆっくりと旅を楽しみながら行くのです。飛んでしまったらつまらないじゃないですか」

アンナ、ナイスフォロー!

「テンマお兄ちゃん、そんなことないよね?」

おうふ、今度はそうきたかぁ~!

上目づかいで俺を見つめるとは、俺の妹属性を狙い撃ちしてくるぅ~。

パコッ!

「だから勝手に実体化するんじゃありません!」

ア、 アンナ、素晴らしい突っ込みだ!

危うく陥落しそうになってしまった。

「母上、聞いてください!
今回の旅の途中で、私のために犠牲になった者達を弔って来ようと思っております。だから、間違いなくその分の時間が掛かるはずです。できれば何か遺品でも見つかれば……」

「そ、そうなの? ……お父様やお兄様も探してくれるの?」

「はい、大変だと思いますが、テンマ様のお許しは頂いております。ズズッ」

詳しくは分からないし、そんな話は初めて聞く。それでも誤魔化せそうな雰囲気になった。

バルドーさんの嘘泣きに、フリージアさんは涙を溜めている。

「わかった……。帰ってくるまで待っている。グスッ、だから最後にテンマちゃんにギュッとしてもらいたいな?」

それぐらいなら喜んで!

アンナも頷いている。

「おいで!」

「うん」

幼児フリージアさんに声を掛けると、実体化して涙を堪えた表情で抱きついてくる。

ギュッと抱きしめると父性と兄性がせめぎ合うような不思議な感覚になる……。

なんでぇーーー!

フリージアさんをギュッと抱きしめると、腕の中で大人フリージアに変身した。

ポヨンがポヨンでポヨンしたぁーーー!

バゴッ!

アンナが手に持っていたトレーで、フリージアさんの頭を叩いたのであった。

も、もう少し時間《ポヨン》を……。


   ◇   ◇   ◇   ◇


翌朝早くから馬車で拠点から出発する。

同行するのはジジとピピ、バルドーさんとアンナ、そしてシルとハルも一緒である。

ハルは甘味が俺と一緒じゃないと数に制限があると判断したようだ。それに王都では目立ちすぎて疲れるらしい。どうせ『どこでも自宅』かルームでダラダラと過ごすのだろう。

見送りにみんなが揃っている。

ドロテアさんは目に涙を溜め、今にも着いてきそうだ。その横には幼児フリージアが浮かんでいる。この2人はテラスウイルスの重症患者だ。暴走しまくりそうで怖い。

マリアさんとミイ、メアリ夫妻も一緒に来ている。何より辛いのが優勝杯《オッパイ》と会えなくなることだ。優勝杯《オッパイ》の揺れを見ているだけで、何かに満たされた気持ちになる。それを拝めなくなるのは本当に辛い!

そしてミーシャが何と泣いている!?

「ミーシャ、今度会う時は立派な冒険者になってろよ!」

「うん、昨日D級冒険者になった!」

なんですとぉ! アッという間に抜かれたぁ!

まあ、俺は冒険者活動していないし、当然かぁ。

それでも驚くスピードである。しかし、まだ火魔術は全く訓練していないみたいだ。

「今度戻ってきたら、開拓村に戻っても良いかもね!」

「うん!」

ミーシャとは一緒に冒険者をしてきた……。

んっ、一緒に冒険者活動したことあるかな?

まったく記憶にない。

「そ、それじゃあ、こんど戻ってきたら一緒にダンジョンを回ろうな?」

「わかった! グスッ」

よく考えるとミーシャは妹みたいだった。歳は上だけど……。

バルガス達も見送りに来てくれたが、特に話すこともない。

エクレアさんとネフェルさんも来てくれたようだ。
2人は少し若返っている。若返りポーションをそれぞれに渡したのだ。2人は満面の笑みで見送ってくれるが、仕事を押し付けて謝りたいぐらいである。

「できるだけ早く帰ってくるねぇ~」

それが年単位になる可能性もあるけどぉ~。

「テンミャァ~!」

ドロテアさんが悲しそうに見送ってくれる。鼻水まで垂らすのはやめて欲しい……。

抱きつかれたくないので慌てて出発する。

研修区画を出て、門に向かう。

門に近づくと、何やら門の辺りが騒がしい。

目立たないように兵士が人払いしているが、俺の地図スキルには大量の兵士が隠れているのが分かる。

門では兵士が緊張しまくって通してくれる。何故か他の人達の出入りが全くない。

門を出てすぐにシャルロッテ王女がアーリンと一緒に待っていた。

「アーリンにシャルロッテ、見送りに来てくれたのだな」

「「はい!」」

2人が元気に答えてくれるが、少し離れた所に怪しい人影が……。

アルベルト夫妻と国王夫妻、宰相も一緒にいる。目立たないようにしたつもりなのか、少しだけ地味な服装をしている。しかし、冒険者の振りしているはずの兵士は、マントで装備を隠しても近衛騎士だと露骨に分かる。

「後ろの連中は俺を襲撃するつもりかな?」

「「ち、違います!」」

向こうにも聞こえたのか顔色が一気に悪くなっているのがわかる。必死に顔を左右に振っているので大丈夫だろう。

「冗談だよぉ。アルベルトさんも居るのに、そんなことしないのは分かるよ」

露骨に国王夫妻も宰相もホッとしている。

そして近衛騎士の連中が一番ホッとしているようだ。

うん、バレバレやね!

「見送りに来てくれてありがとうな。シャルロッテのこともマリアさんに頼んだから、今度訓練に参加しに行けよ」

「えっ、あ、ありがとうございます!」

シャルロッテは王女だよね。なんか偉そうに話してしまった。

まあ、涙ぐんでアーリンと一緒に喜んでいるから大丈夫でしょう!

「それじゃあ、また今度な!」

そう言うと馬車を出発させる。何故か国王夫妻まで手を振って見送ってくれている。

うん、今度はここにいつ戻ってくるのだろう?

自分でもこの先はよく分からない……。
しおりを挟む
感想 437

あなたにおすすめの小説

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。