397 / 401
04 ー touch ー
28-2
しおりを挟む荷物をローテーブルの上にどさりと置いて、はー、とやっとソファに身体を投げ出す。疲れた。腹減った。
洗面所の方から間抜けな電子音が聞こえる。鏡の所の照明にでも当ててるのか。
遊んでないで、いいから早くこっちおいで。
コートを脱いで戻って来た海の髪は少し濡れて、でもあちこち跳ねていた。
洗面所で直してたのか、と理解する。
なんだ、ずっとフード被ってると思ったら、髪の毛なんか気にしてたのか。
そんなのいいのに。
まだそんなに親しくなかった頃は、艶々としてトリュフチョコみたいだと思った事もあったけれど、熱を出した時に寝起きのひどい状態はもう見てるし、どんな変ちくりんな髪型だって、今ここに君がいてくれることが嬉しいんだから。
「海こっち来て座んな。お疲れ様」
「うん」
海はぺこりと隣で頭を下げ、距離を置いてソファにトスンと腰掛ける。
ごく普通に、隣にそうして座るのが、何だかホッとする。
「君も疲れたろ」
隣に投げ出された彼の手に手を重ね、指を絡めて、握る。
「んっ」
「結構歩いたから、今日は冷たくないね、手」
「運動、したから」
僕の手の下で、少し強張っている手。あんなにぐいぐい引っ張ってくれたのに、ここに来てまた緊張している。
本当に、何で急に、自ら手を出して、ここまで連れて来てくれたんだろうか。別に車で帰っても良かったのに、ずっと前に立って導いてくれた。
今まで手を繋ぐのも恥ずかしがってるようだったのに、彼の気分は本当にわからない。
けれど、こうやってずっと手を繋いで来てくれたから、僕はすっかり充電されて、元気になったよ。
「うん、引っ張ってくれてどうもありがとう。助かったよ。今日は朝から何も食ってなかったからホントやばかった」
「そうなのか」
横顔で少し微笑む。
「君はどう?あれからちゃんと食事した?」
「あれから……え……っと……」
海は握られた手を気にしながら少し考えて、昨夜から何か口にしただろうか、と思い返す。
そう言われれば、今朝ここに来た帰りに、パン屋に寄ろうと思って……思っただけで、帰って寝て、あとはあちこちうろつき回ってただけか。昨日は、置き去りにされてから、荷物を置いて、公園で……
「……煙草……?」
「えー?」
煙草?だけ?
相変わらずでちょっと呆れてしまう。それ食べものじゃないし。
「っていうか、煙草吸うようになったの?」
「う、うん」
「うーん。そうかぁ。あまりお勧めはしないな」
「あんただって吸ってるだろ」
「そうなんだけど、僕としては、君を健康にするためにめし食わせてるつもりだからさ」
「もう健康だ」
「うっそだろ」
「本当だ。最近、検査の数値が、少し良くなってるって言われた」
「検査……?あ、血液検査の?まじか」
定期検診を免除される代わりに行かされているという採血検査。今も通っているのか。
「うん。多少の改善が見られるって書いてあった」
「本当かい。やった。努力の甲斐があった」
「大袈裟だな」
「大袈裟なものか」
彼にはいつも迷惑そうにされてるけれど、頑張って食事させて良かった。僕がいる事で彼のためになったことがあったのだ。身体は正直にちゃんと反応している。こんなに嬉しいことはなかった。
「よっしゃ、じゃあ今日もちゃんと食おうぜ」
そう言って立ち上がると、料理と言うほどでもない、温めるだけのターキーを焼き、添えてあるソースで盛り付けるだけの遅い夕食を用意した。
スープを温めるのと、サラダを皿に取り分けるのは海がやってくれて、二人で子供用シャンパンを開けて、互いの健康に乾杯した。
インスタントで簡単なディナーだけれど、鳥はほろほろと柔らかく美味しく、海も口に合ったようで、中に詰まってた野菜もきちんと一緒に食べてくれた。
そのあと、パンケーキミックスを使って薄めに焼いたものに、苺に砂糖とレモン汁を入れてレンジで温めただけのベリージャムを作って挟み、何層にも重ねたケーキを作った。この苺のソースが海に大好評で、それだけをずっと食べていたそうな様子だった。
二人とも何も食べてないだけの事はあって、海に持って帰らせるように分けたもの以外は残らず平らげたという感じだった。
二人で食器を洗い片付け、食後の紅茶を飲んで、海がそろそろ帰る、と立ち上がる。
「そっか……」
そう、明日も仕事なんだよな。これが昨日だったら、泊まって行ってもらおうと思っていたのに。
残念だけど仕方ない。もうずいぶん遅くなってしまった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
俺と父さんの話
五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」
父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。
「はあっ……はー……は……」
手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。
■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。
■2022.04.16
全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。
攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。
Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。
購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!
身体検査が恥ずかしすぎる
Sion ショタもの書きさん
BL
桜の咲く季節。4月となり、陽物男子中学校は盛大な入学式を行った。俺はクラスの振り分けも終わり、このまま何事もなく学校生活が始まるのだと思っていた。
しかし入学式の一週間後、この学校では新入生の身体検査を行う。内容はとてもじゃないけど言うことはできない。俺はその検査で、とんでもない目にあった。
※注意:エロです
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる