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04 ー touch ー
23-1
しおりを挟むどうしよう。
インターホンからあの人の声がしたら、何て言おう。頭がぐるぐるする。
ところが、しんとして、誰も出ない。
もう一度押す勇気もなく、指を離して、ふー……と息をついた。
いない。
いなくて良かったような、悪かったような。
買い物袋が無いのだから、夜中に帰って来て、持って入ったんだよな?
それとも彼はまだ帰っていなくて、買い物袋は誰かに泥棒でもされたんだろうか?
それから、そうだ、と思いつく。
そうか。あの人、走りに行ってるのかもな。
そっか。じゃあ、留守か。出直しだな。
少しホッとして、また別の不安を抱えて、班長の部屋を後にした。
何しに行ったんだろう、と考えつつ、改めてベッドに潜った。
プレゼントの言い訳を考えようと思っていたのに、昨夜眠れなかったぶん、すぐにうつらうつらとする。
昨日から、少し疲れたな。
でも、どうせ今日は、何の予定も無いのだ。ゆっくり眠って、明日から二日、三日、あと少しだけ仕事に行ったら、すぐに、冬の休暇だ。
少し眠り、また目覚めると、窓から見える細い空に、うっすらと月が昇っているのが見えた。夕暮れ。
意外にすぐ目覚めてしまった。朝まで眠ろうと思っていたのに、まだ「今日」に未練があるのだろうか。
寝返りをうつと、まだそこにある煙草の箱が目に入る。
ああ。
これも、返さないといけない。
プレゼントよりも、この煙草こそあの袋に入れて置いて来るべきだったのに、勝手に持って帰って、開けてしまった。
どうしてそんな事したんだろう。
ともかく、新しいのを買ってちゃんと返さなければ。
明日仕事場に行く前にあの店に寄って、あそこの自動販売機で買って……いや、販売機で買うには何か証明カードが要るんだっけ?そんなの持っていない。
どこか、店に買いに行かないと、明日返せない……
枕代わりのタオルに頭を押し付けて、しばらく呻いてから、また起き上がって、着替えて、のろのろと出掛ける。
自動販売機で売ってるようなやつだからその辺の店に行けばあるだろうと思ったが、近所の小売店にはなかった。他の店でも、いつものメンソールの方はあってもこれと同じ銘柄の方はなくて、何軒か探しまわる羽目になった。
煙草の事など分からないから少し焦る。珍しい食材を売ってるような店の販売機にしか入っていないのだろうか。
結局、隣のターミナル駅のビルまで出掛け、売っている店を見つけて、やっと一箱、同じものを買えた。
ふう、とため息をつく。隣駅にそこそこ大きな商業施設があって助かった。
コートのポケットに入れて、フロアの階段を降りる。
改札フロアは広過ぎる空間。多過ぎる人間。
一つ隣の駅だけれど、ターミナル駅だけの事はあって、乗降客の多さや街の規模は段違いだ。駅ビルの店舗数やさまざまな商業施設も、地元駅とは数も大きさも華やかさも違う。
ホテルの入っているビルの吹き抜けの中央には、どのフロアからも見下ろせる位置に大きな木のオブジェが置いてあり、白い枝に色とりどりの電飾や飾りが施されてキラキラと光っている。
その前にもたくさんの人がいて、待ち合わせをしたり、写真を撮ったりなどしている。
普段から人の往来が多い場所なのに、今日はいつもよりも混雑している気がする。煙草一箱のためにこんな場所まで来る気はなかったのに。
人混みがしんどくなってしまって電車に乗る気になれず、食事の後にいつも散歩したあの静かな住宅街の道を歩いて帰る事にした。
疲れた。体力的にも、精神的にも。
昨日から、俺は一人で、慌てたり、落ち込んだり、本当に馬鹿みたいだ。
他人と関わると、こんなに色々やることが増えて、疲れるものなのか。
俺はやっぱり、ずっと一人でいたような人間だったのかもしれないな。
だったら、ずっと一人でいたのだから、今更一人になったところで、どうだっていい。
また投げやりにそんな事を考える。
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