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04 ー touch ー
14-1
しおりを挟む雨の屋上。
珍しく海が煙草をくれなどと言って、二人で吹かしながら、何だかクスクスと笑っている。
不機嫌になったのかと思ったら、煙草を吹かしながらの健康アピールだ。
僕の好きな人は、沈んだり、弱ったり、とぼけたり、ぐるぐる考えこんだり。
雨の日の彼は、気圧が影響しているのか、どこか薄らぼんやりと気が抜けている。
もちろん仕事をしている時は、そうではないことは良く知っている。集中し過ぎて帰りに立ち上がれなくなるほどグッタリした姿を何度も見ているし、眠くなるから昼食はいらない、と言っていたくらいだ。
今は僕がしっかり昼食を食わせているから、午後は大丈夫なのかなと心配すると、
「眠くなったら、カップのコーヒーを買ってる」と答えた。
自動販売機の中で豆を挽いて、紙コップで出て来るやつだ。
「ああ、眠い時はやっぱりカフェインだよな。挽きたてのは濃くて美味いよね」
「ううん。熱いから」
「は」
「カップのは、ホットの缶よりずっと熱いんだ。熱くて、痛いから、ビックリして目が覚める」
「……はー……」
感心でも賞賛でもない声で空気が自分の体から抜ける。
なんだその方法。コーヒーは熱くてビックリするからだって。
カフェインの効果などは全く関係無く、ただのいつもの猫舌だった。
また、熱がりながら、舌を冷ましながら飲むのだろうか。
当たり前のように、砂糖もクリームも増量ボタンを押してんだろうな。
「そりゃーいいね……」
超適当な相槌を打って、その猫舌を想像する。
そしてまた、あの赤い色と、甘かったキスのことを思い出す。
あの舌で、声にもならない声で名前を呼ばれた夜。
あの時は無性に彼を家に持って帰りたくなってしまった。
少しずつ近づいて、近づいて、慣れてもらって。
一緒にいるだけで、その静けさに包まれて、僕の心も大人しくなって、居心地が良くなる。
君といると、何も気にしないでいられる、不思議に自由な時間がある。
ヘンテコな会話と、少し切なくなる彼の境遇と、拙くて不器用で、素朴な、何か。
それと、たまの笑顔。
そういうものに何故か癒されるような時間。
それがもっと欲しい。
そんな物を自分が欲しがってるとは思ってもいなかったのだ。
持って帰りたくなるほど、離れたくない。
もっと、近くに来い。
もっと一緒にいよう。
そうして、もっと……
ケホ、と咳が聞こえて隣を見る。
細い指が、よせばいいのに、僕の真似をして、むせながら煙草を吸っている。
仕事先や、家族や、付き合って来た人の色んな言葉があったけど……
煙草をやめろとか、やめなくていい、とか言うのではなくて、一緒に吸い始めるのが、君なんだよなぁ。
そんな事にも癒されて、ほのぼのとその横顔を見つめながら、ふう、と煙を吐く。
隣で同じように煙を吐く、唇。
やっぱり少し尖っていて、そこに触れたいな、と思う。
もっとくっついていい寒い季節が来るから。
子供の頃、合唱団で慰問に行かされて、同じような歌を沢山歌わされた季節。
赤い服着たお爺さんが、ソリに乗ってあちこち走り回る時期だ。
互いにプレゼントを贈りあったり、大事な人と一緒に過ごして、来年もこうしていられますようにと祈ったりするシーズン。
僕らは初めて、そういう季節を一緒に過ごすんだ。
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