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04 ー touch ー
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しおりを挟む「何これ」
「カボチャの料理を頼んだ人には仮装グッズプレゼントだって」
「仮装……ああ。さっきの店でみんなやってたな」
海はベンチに置いたカップの隣に腰を下ろし、渡されたものを手に取って眺める。
「さっきコウモリやれって言ってたのに」
「断然こっちの方が似合うと思って。黒猫は、魔女のお供だよ」
班長もベンチにカップを置いて、その横に腰掛けた。
「魔女って、あの、傘で空を飛ぶやつか」
「え?あー……こないだの映画のは、魔女とはちょっと違うかな。あと、普通は傘じゃなくて箒で飛ぶんだよ」
「フーン」
「学生の頃は、毎年この時期みんなで色んな格好したよ。お姫様、ドラゴン、妖精とか、死者とか、色々衣装やメイクに凝ってる人も多くて、面白かったよ」
「俺は死者がいい」
「死ぬのは駄目」
何となくヒヤリとして遮る。
コイツはすぐ、消えたいとかそういう事を言う癖がある。そういう思考の癖は、本当に何かあった時に、良くないような気がする。
「死者になってずっと寝ていたい……たまに起きる」
「他にもあるだろ。モンスター、吸血鬼、別に、怪獣でもマンガのキャラクターでも、映画のヒーローでも、何でもいいんだよ」
「吸血鬼……」
「吸血鬼は嫌?」
「その格好しないとやられるなら仕方ないけど……」
「仮装なんだし、そんな真剣なもんじゃないよ。吸血鬼に襲われたくないなら、私は貧血ですって顔に書いとけば」
「ウン」
その冗談に海は少し笑って、もう冷めたかなと飲み物を手に取る。
(お、飲むのか)
いつもの倍の甘さに身悶えろと期待しつつ見ていると、こくりと一口、そして表情も変えずに口を離す。
「……」
「なに」
やっぱり、糖分は底に沈んでしまったのだろうか。
いや、それでもいつもより激甘いはずなんだけど。分からないのか。もう舌がバカになってるのか。これに戦いを挑む僕がバカなのか。どこまでも素面な顔してる目の前の男。
「すごいな……」
呆れて呟くと、また「何が?」と聞いてくる。
「なんでもない」
「何だよ」
「何でも……」
何度も問い掛けて来る様子に笑う。
なんだか、こんな風に、何々って聞いてくるのが、ちょっとかわいいな、と思った。
何かに興味を示し、知りたがる様子。
一緒に衛星を見に行ったタワーであちこち見て回っていた後姿や、料理を作った時。
いつかの「名前教えてください」で変に感動してしまったから、アジサイの場所を知りたがっていた時も、雨の中だろうが協力したくなってしまった。
何でもいい、と口癖のようにいつも言う。
でもそれは何事にも興味も関心もないって訳じゃなく、彼には、分からない事があって何かを尋ねても、誰にも答えてもらえない事情があるから、誰かに向かって疑問を発するという事自体、抑えて生きて来たのだろう。
聞いても仕方の無い事。自分でも分からない持ち物。考えても仕方のない状況。
だから、君が知りたいなら、僕の知っている事は、全部教えてあげたくなる。
君の知りたがらない事は……。
どうでもいい、知っても仕方がない、と嵐の夜、自分の身上について言っていた。
彼が、本当に、昔の事を知りたくないのなら、僕も余計な詮索やお節介はしない。
今のままでいい。
今こうして、隣に腰掛けて、一緒にいる。それだけで。
「何なんだ……」
首を傾げて、カップを置いた。
何なんだろうね。そんなに見られるとちょっと照れる。でももっとこっちを見て欲しい。
「別に。ねえそれ、着けてみてよ」
彼の手に持ったままの、猫の耳のカチューシャ。
「君は死体でも吸血鬼でもない。魔女のお供だ。貸して」
そう言ってぱりぱりと包みを開き、はい、と手渡す。
海はしばらく手に取って眺めて、そのフエルト製だろう耳の部分をつまんで触感を確かめたりして、それから促されるままに頭に乗せる。
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