海のこと

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03 ー slowly ー

27-4

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「知りたいから」

「触って、何がわかる」

「体温」

冷たい君の手。人の温かさが苦手と言っていたそれが、温まって行く様子。
そして少し震えて、鼓動が速い。
手のひらから、絡めた指から、脈動が伝わって来る。

「あと、心臓の音」

「……」

「それと、呼吸」

「そんなの、知って、どうする」

「君が生きていて、生身で、……怖がりだってのがわかる」

「怖……くない」

弱みを握られたように動揺する。
友達ではなくなった日から、どんどん、反応が素直になって来ている気がしている。
口では相変わらず反対の言葉ばかりだけど、近くにいて、手を握って、声や息遣いを聴いて、こんな薄暗がりでも、どんな顔をしてるか何となくわかる。

「君は、人に触れられるのをとても怖がっている」

「怖くなんかない。苦手なだけだ」

「慣れて」

「どうして……」

どうして、どうしてと、いつも何度も問い、迷う。それが可哀想になる。
迷わないでいい。ただ僕に慣れて欲しい。

「傍にいたいから、慣れてよ」

「いるじゃないか、今日も、ずっと」

「もっと近くても、ずっとこうしててもいいように、慣れて」

「あ、握手に?」

「色々にさ。君はいつも手が冷たいから、そういう時、温めたい」

「手袋、するし、カイロ使うし、缶コーヒー買う」

強情さに笑ってしまう。しかもそれ、冬の時に言うやつだろ。

「君の方から触ろうとしてくれた事もあった」

「……」

きゅ、と細い手を握る。

「あれ、は、……う」

海は小さく呻いて、肘を引きそうになる。


そうだ。

俺は、この人に、やっと触れられた。

何も無かった世界に、苦痛以外の実体があることを、
この手に何か、触れられるものを確認しようとして……

それが出来ると、この人が嬉しそうにするから、だから……


……またいつか、寄りかかられても、平気なように、我慢したいとは思っている……けれど……


でも、そう思う事と、実際にこんな風にされる事は全然違う。
やはりまだ、違和感と怖れが身体に染み付いて拭いきれない。

「そうだけど……そうだけど……あ、や……」

海はたじろいで、ゾッとするように首をすくめる。
毛布の下で握られる手。組まれる指。
指と指が触れ、細い指の側面、関節、指の股、付け根。
握られる度に、その部分部分が相手のそこと微かにこすれ合い、普段意識したこともない皮膚の感覚に、背筋までがぞくぞくする。

「駄目?」

「……かゆい……」

「かゆい?」

「かゆいから、やめろ」

くすぐったがって手を引こうとするのを、また掴む。
ピクリとまた反応が見られる。うっと言って反射的に逃げようとするのを、逃さない。

「怖い?」

唇を噛み締めて、頑なに首を振る。

「怖くはない」

「なら、もうちょっと耐えて」

「ウ……ン」
 
 
 
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