海のこと

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03 ー slowly ー

26-3

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ナイトランプにぼんやりと輪郭を照らされて、毛布を被ってソファの上に座っている。
やっぱり、人のいる所では、相変わらず眠れないのかな。リビングよりも、寝室に行って、ドアを閉めて寝てもらった方が良かったか。

「ソファだと眠れないだろ。やっぱり君がベッド使いなよ。僕がこっちで……」

「あ、違う、いいんだ。多分、コーヒーの飲み過ぎなんだ」

「そうか」

無理に勧めるのはやめておく。寝室に行かせた所で、自分のベッドじゃないとゆっくり眠れないのかも知れない。倒れた時とは事情が違う。

「僕は喉乾いちゃってさ。ちょっと、ごめんな」

班長はソファを横切りキッチンに移動する。

「君も何か飲むかい」

「そうだな、水、貰う」

海も空調で乾燥していたのか、立ち上がろうとする。班長はいいよと言って、冷蔵庫から出した水のボトルと、コップを二つ持って来て、ソファの隣に腰掛ける。

「あ、どうも……」

そう言って、毛布を被ったまますぐに端っこに移動する。

「そんな、遠くに離れないでよ」

班長は笑いながらボトルの水を注ぐ。海は、スミマセン、と言って、2~3センチだけ戻って来て、コップを手に取った。
やっぱり距離を置かれてしまう。
まぁいいさ……と苦笑してコップを傾け、隣にいる人を見つめる。


 
僕の家に君が来てくれて、夜を過ごす。

ソファに並んで座る距離も大して近くなってる訳でもなく、以前とそれほど大きな変化も無い。
……ように見えて、何となく、君がここにいる事に馴染んで来ているようにも思える。

ソファにちんまりと収まって飲み物を手にしているその姿も、見慣れたな、と思えるのが嬉しい。
近頃はもう、家の中に飾ってある観葉植物ぐらいには、落ち着いてきてると思うんだ。


「調子はどう。この天気。物凄い低気圧」

「あー、うん……ちょっとぐらぐらするけど、平気だ。最近は、そんなに弱くない」

「ちゃんと食べてるからだよ。もっと運動もしようぜ」

「うーん。まあな」

海は曖昧に返事を濁す。

窓の外はまだ雨が強く打ち付けて、びゅうびゅうと風の音がしている。

「停電しないといいなあ」

ぽつりと呟くと、黙っていた海もこくりと頷く。

「停電しても、この辺は駅の近くだから、何かあっても復旧は早いだろうな」

「そうかもね。君の家の方はちょっと区画が違うから、どうだろうな……あ、何かあったら、キャンプセット貸すよ。ヘッドランプとか、調理用品とか」

「いいよ。そうなったら、寝るから」

「色々出来なくて不便じゃない?」

「うん。むしろ、何も出来ないんだから、堂々と寝る」

「君らしいな」

「調理用品借りても俺、料理しないし」

「何でさ。今日、出来たじゃん」

「混ぜただけだ」

「混ぜて冷やすだけで出来るのもあるよ。ゼリーとか。好きだろ」

「そうなのか……」

「今日のも、混ぜて漬けて焼いただけ。そんなのから少しずつやってけばいいよ。またやろうよ」

「うん」
 
ナイトランプのほの灯りの中、少し離れて毛布を被って座っている、ほっそりとした横顔が微笑んでいた。
 
 
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