海のこと

03 ー slowly ー

26-1

　
班長は寝室で、何となく眠れずにいた。

ベッドには入ったものの、今日は昼寝をしてしまったので、すぐには眠くならない。

海のいるリビングも静まり返っている様子なので、起きて何か出来る訳でもない。
酔っ払いなら、ちょっとやそっとでは起きないから、そういう友達を泊めた時とはやっぱり違うよな。
それ以前に、もう、友達という間柄でもない……んだけど……。

ごそごそと寝返りを打つ。
前に彼を泊めた時は、熱があって、このベッドで寝てもらったっけ。
同じ季節だった。この夏用の上掛けに、少しの残り香があったのを覚えている。

誰かがいると眠れないと言っていた彼が、あの時だけは完全に意識が無くて、担いでも、靴を脱がせても、何の反応もなく、ただ疲れて、熱を出して、眠っていた。
今日はどうだろう。休めているのだろうか。

じっと耳を澄ましても、やはり隣の部屋は何の物音も聞こえない。
強い風と、窓を叩く雨の音。
眠れないのは、僕だけか。

ナイトランプも貸してしまったし……と、手元の携帯端末を見て、しばらく過ごす。
写真のアルバムは、彼が送ってきた去年のアジサイの様子が最新になっている。

水滴を湛えて、紫蒼や、ピンク色の花が、緑の葉の上に丸く咲いている。
少し下の角度から、青空が入るように撮影されていて、虹のようだと彼が感じたままの写真になっていた。

真っ黒い服しか着ない君の見た、色とりどりの世界。

以前に、記憶が無い人は、どのように世界を見ているのだろうと思った。

実際、彼に付き合っていると、色々なものごとが、自分とは少し違うように感じられているんだなと度々思う。
さっきも、嵐の様子が海のようだと言って妙に感じ入ってるようだった。

そしてその彼の事を、暗い夜の海のようだと思った、その時の感じを思い出していた。
誰もいない、深い海だ。
見渡す限り真っ暗で寒々しく、吸い込まれるように真っ黒な……
そんな印象の人だと思っていた。