海のこと

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03 ー slowly ー

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また、長い一週間が過ぎる。

朝は、最近またあの人と電車で会うようになった。

あまり話はしたくない。
自分からも話さない。
俺を変わり者だと思ってる人に、俺とあの人が話してる所を見られたくない。
ただでさえ、しなくてもいい親切をくれる人に、そんなの申し訳ないと思う。
だから、あまり、人のいる所に一緒に行かなくてもいいし、行こうなんて考えもない。

これからは、隣の駅でも飯を食おうと言われた。
地元駅は大して大きくもなく、職場の知り合いも見かけた事はない。
けれど隣の駅は少し大きめで、利用客も多いので、知ってる人に会わないか気になった。
でもよく考えたら、班長とはもう同じ仕事場でもないんだし、俺の顔なんて知らない人の方が多いかも知れない。
どっちみち、あの人はそういうの、全然気にしないから困る。

急に手を、繋ごうとしてきたり……


揺れる通勤電車の中でも、ふらつく度に、何度か支えてくれようとする。
その手が、まだ恥ずかしいような、俺になど触るのは申し訳ないと思う慣れなさで、頼る事が出来ない。
その手は親切で温かいと知っているのに。

俺は、まだ、色んな事に慣れていかないとならない。


その週はずっとどんよりした天気で、体調も今ひとつ良くなくて、週末の食事もそこそこに帰宅した。
ベッドの上、朦朧として、何度も目覚めてはまた眠る。

少し頭が痛い。
前より調子が良くなったと思っていても、この季節は相変わらず、この身体に重苦しく圧力をかけてくる。

よろよろと起き上がって、どうにかシャワー室まで辿り着き、頭から温い雨を浴びる。
ザア、と何も聞こえなくなるような雨音。

シャワー室から出て、タオルを被り、そこでやっと、今日は休日なんだと気がつく。
寝癖、気にしなくても良かったんだ。

窓をほんの少しだけ開ける。
静かで、雨の音以外聞こえない。
部屋着のまま、もう一度寝直そうかな……と、ベッドに入る。
枕代わりにタオルを重ねて使ってるので、少しくらい髪が乾いてなくても構わない。

布団にくるまれ、タオルに埋もれて、目を閉じてただ雨音を聞いている。
夢の中にいるような、覚めているような感覚が心地良い。

あの夜もこんな感じだったかな。


酔っ払ってただろうと言われた。
酔っ払ってなんかない。何をどうしたか分かってる。家にもちゃんと帰れてる。


ホテルのレストラン、初めて行った。
山のように食わされた。

コース料理っていうやつは、皿の中身をちゃんと片付けないと次が出せないって班長が言うので、物凄く頑張って食べた。
お腹いっぱいになって、ケーキも美味しくて、食い過ぎて、……確かに、途中で訳分かんなくなった……かも知れない。

訳分かんなかったけど気分は悪くなくて、でも、変だ変だってあんまり言われるから、変じゃないよって思ってるうちに、変だって言うなら変でもいいや、ってなってたかも知れない。
この人のせいで、俺はいつも、変になるんだ。
 
 
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