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03 ー slowly ー
14-2
しおりを挟む最上階に上がり、フロアに出るとすぐレストランの入り口が見えた。
班長は受付に予約を告げて何か記入すると、おいで、と言って海を手招きする。
物慣れた様子と、初めて見たスーツ姿が、やはり自分とは違う、遠い人に思えてしまう。
それでも、奥の窓際の席に案内されて、広い窓の向こうを見ると、ぱっ、と心が晴れる。
仕事場の近所のタワーのように高層ではないがそこそこの高さがあって、周囲にはここより高い建築物も無く、夜の街の光が眼下に広がっていた。
「綺麗だ。結構遠くまで見える」
「うん。窓際席取れて良かったな。週末なのにラッキーだ」
「本当だな」
海は嬉しそうに窓の方を見る。
班長は向かいの席からそれを見て、やはり嬉しそうにしてメニューを開く。
上司と別れて、訪問先から真っ直ぐ地元駅に向かう途中に届いた突然のメール。
心底驚いて、その気が変わらないうちにと早々に下車して、ホームから電話をかけた。
腹が減ったなんて言う。
しかも、自分にそれを言ってくる。
今まで色々ウルサク言ってきた事は無駄じゃなかった!と心の中で一人盛り上がった。
電話口で、海は何故か恥ずかしそうにしていたけど、腹が減るのは恥ずかしいことではないんだし、もう何でもいいから、とにかく食べさせてあげたい、と思った。
いくつか自分が知ってる店を思い付いたが、そういうのよりも、腹が減ってるというなら、いっそ食べ放題なんかの方がいいか、いやそういうのは偏るし、アイツが食べ放題の料金分絶対食える訳ないもんな、と色々考える。
だったら少量で色んなのが食べられる方がいい。少量なんだから美味しい方がいい。
そこで、最近仕事の雑談で外食の話をした時に、そこのホテルのは割と良かったよと聞いたことを思い出した。
コース料理!少しずつ色んな料理が出て、皿が空かないと次が出て来ない。
あいつ食べ物残さないから、バランス良く完食させるのにうってつけなのでは。
それに、コースで汁物以外そんなに物凄く熱くしてる料理はおそらく無い。目の前で仕上げてくれるようなものを避ければ大丈夫だ。
そこまでを10秒位で思い付いて、店のサイトを探し、すぐに予約を入れた。
信じられないくらい嬉しかった。
「ねえ、何で急に、食欲が出たの。マジで、メール見て電車の中で声出たんだけど」
「それは……燕……が……」
海は少しもたつくように呟く。
「ああ、送ってくれた写真のやつ?可愛いかったな。野鳥は今の時期、子育てするよな。僕も子供の頃はよく巣箱作ってあげてたよ」
天敵の来ない所に巣箱を作って、子育ての手伝いをするのは楽しかった。
親は子供に色んな虫を運んで食べさせる。たまに親が戻って来なくなった雛がいて、放って置けないので、家に持って帰り、飛べるようになるまで自分が餌をあげて育てたこともあった。
穀類だけよりも虫、しかも生きた奴がいいと言うから、土を掘り返したり、木の実の中から引っ張り出したりして食べさせたものだった。
「賑やかなんだよなぁ、あれ」
「ウン。子供が沢山、いくらでも、食ってて……」
「もしかして、それ見て腹減ったの?ハハ、写真からめちゃくちゃ空腹伝わって来たよ」
「……あ、え…っと……」
海は、聞かれて、真っ直ぐ答えられなかった。
そうだけど、そうじゃないんだけど、
そうだけど……。
自分の中に起きた心境の移り変わりを、上手く説明出来ない。
寂しくなったこと。
会いたくなったこと。
足りなかった、の意味。
あの時の気持ちをどう伝えれば正解なのか分からず、困ってメニューに目を落とした。
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