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03 ー slowly ー
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しおりを挟むすっかり暖かくなって、過ごしやすい日々が続いている。
それと共に、天候も変わりやすく、雨の日も増える。
僕も、自分で折り畳み傘を持ち歩くようになった。
移動と外出が増えたからだ。
新しい職場は、年配ばっかりでまぁ、一見閑職っぽく見える。
食堂の運営自体は、業者が入札で入っているので、仕事としてはその業者の管理や、予算や運用体制を見たり、在庫管理のような事をしたり、色々だ。
データを見て、什器でも食材でも、不足があれば補充して、各所からリクエストがあれば予算内で取り寄せる。
システムの一括管理でラクなものだろう、と思いきや。
たまに、本当に不足しているものなのか、また衛生環境なども抜き打ちでチェックしにいかなければならない業務があって、こちらの方がメインの業務のようだった。
加えて、過去に地元業者との癒着や在庫の横領が何度もあり、それで改善指導やら、倉庫回りやら、見回りという体裁のお手伝いなど定期的な出向がある。
他に、防災時用の倉庫やら、期限前の食材をボランティアに回したりなどもやっているようで、そういえば学生ボラの頃、この手の配給みたいな事を手伝わされた事があったな、と思い出す。
こういうことか、おじさん達が面倒臭がっていたのは。
現場仕事。
もちろん回るのは管轄内だけで良いのだが、厨房のある支所は何箇所もあるし、出向の為の時差出勤も多かった。
もう通勤電車と昼休みにしか会えない奴がいるのに、その時間すら無くなるような業務だとは思ってもみなかった。
大学を出てあてもなくブラブラしていた頃に、当時少し諍いのあった父に「ボランティアが好きだっただろう」と勧められた職場。
気遣いに応えて素直に試験を受けたら通ってしまい、けれど特にボラと関係のある部署ではなく、知らない所の史料調査だったり、今は食堂施設担当だ。何でこんなことになったんだ。
「はーあ……」
外出が増え、通勤時間がずれ、通勤も、昼休みも、ここの所、全然会えていない。
その週は挨拶回りで終日外出しっぱなしで、週末も何かの会合みたいなのの手伝いをさせられたので、いつもの二人での食事が出来なかった。
今日も早い時間に移動して何件も回って、午後の予定が急にキャンセルになったお陰で、やっと手が空いた。
「午後はあそこだけだったな。金曜は残業だったから、今日は半休にして帰っても構わないぞ。俺もそうさせてもらうよ」
一緒に動いていた上司は職場に連絡を入れると、すぐに車を呼んで帰ってしまった。
自分も帰って寝ようかとも思ったが、まだ昼前だったので、そのまま職場に戻った。
やっと、屋上で一緒に昼食が食える。
「あれ、直帰と聞いていましたけど」
事務の女性に声をかけられ、「報告書が溜まっているので」と言い訳をして席に戻る。
海とはもう二週間近く顔を合わせていない事になる。
会えなさ過ぎて、会えるのが嬉しくて、待ち合わせのメールについ「先週はしんどかった」と書いてしまった。
会う機会が無さすぎるのに、相変わらず君は電話もオンラインも嫌いだし、メールも素っ気ないしで、声が聞きたくて、実物に会いたくて、本当に結構しんどかった。そういう気持ち、分かってくれるだろうか。
……と思ったら、返って来た返事が「疲れてるなら来なくてもいい」と来た。
違うって。
本当にコイツは、分からん奴だな。
「会いたいから」ときっぱり書いて返事をすると、少しして「買い物して来ようか」と、珍しい返事が戻って来た。
まじか。昼食、君が買って来てくれるのか。
一瞬嬉しくなったが、真顔でお菓子だけ買って来る姿しか想像出来なかったので、有難く断った。
混む前に早目に出かけ、近所のベーカリーで買い物をして、業務用エレベーターで屋上へ向かう。
外に出るドアをくぐると、春の陽光の中、いつもの黒い姿が、眠そうにフェンス際に座っているのが見えた。
ああ、いた、と今日も思う。
約束した時間と場所に、ちゃんといる。
やっと会えた。
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