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02 ー he ー
47-2
しおりを挟む始業の前に、異動を聞いた班のメンバーがざわざわと集まって来る。
「はんちょー、出世なのか」
「いえ、そうでも。フロアは変わるけど、気が向いたら遊びに来てください」
「みんなで食堂通うから奢ってよ」
「食堂勤務じゃないから、来てくれてもどうにもならないよ。あ、でも回数券買ってくれるなら考えてもいいですよ」
「えー。じゃあ自腹で奢って」
「煙草一本ならいいよ」
「おれ吸わないし。ケチ」
「ケチって。煙草、高いんだけどな」
「喫煙者の価値観おかしいよ」
「いいんだよ。俺らは喫煙室で会おうぜ班長」
「ああ、そうだな、君達はまたそっちでよろしく……まあ、そういう事で、今月いっぱいで皆さんとはお別れになります。至らない班長でしたが、今まで色々とありがとうございました。後任につきましては、追って連絡します」
「え、本当にマジなんですか」
「それがマジなんで……僕も残念です。今月は残りの日全部、お昼ご一緒します」
「奢り?」
「全く奢りませんけど」
「ちょっと、こういう時は普通私達が奢る側でしょ」
「えっそりゃそうだけど、毎日は無理」
「ああ、いいですって、いつもと同じで、本当に……。ええと、皆さんには、業務でも、その他の時間でも、色々お世話になりました。残り短いですが、もう少しの間よろしくお願いします」
海は、ただ呆然と班長の挨拶を聞いていた。
班長は話しながら一瞬こちらを見て、また違うメンバーに視線を移す。
話している途中も何度か脇道に逸れるようなやりとりがあり、ガヤガヤと賑やかに簡単な挨拶が済んで、いつものように通常業務が始まる。
昼は、また違う班の何人かが話を聞いてやって来て、毎日結構な人数でぞろぞろと食事に出掛けていたようだった。
他班の人にも声をかけられて、顔見知りが随分と多いことに改めて驚いていた。
俺は、あんな人の時間を奪ってたんだな。
本当に、何であれだけの人数相手にしてて、あの人は俺なんかに構ってたんだろう。
やっぱり離れて良かったのだ。
その日の仕事の帰りに公園でひとり、例のベンチに座ってぼうっとしていた。
そこにそうしていると、今にもあの人が向こうから走って来るような気がした。そういう事が今まで何度もあった。
けれど、その夜はそんな事もなく、また夜に凍えて、これ以上仕事は休めない、と、ふらふらしながら引き上げた。
一体何をしに来たんだろう、と思った。
その後、あの辺のみんなで集まって、どこか近所の店で食事会をしたようだった。
最終日は有志から小ぶりの花束を渡されて、えっ辞めるって勘違いしてる?と慌てて、笑われていた。
翌月から彼は居なくなって、作業中にすれ違う事も、稼働時間帯が変わったのか、駅で会う事ももう無くなった。
新しい班長がまたどこかから異動してきて、生活も業務も、完全に以前のペースに戻った。
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