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02 ー he ー
50-2
しおりを挟む静かな週末の夜。
きっとみんな、何処か夜の街で賑やかにやってる。
それで2人、こんな所で、パンの袋の受け渡しだけで揉めてる。
「酔ってるけど、真面目だよ」
「……」
「配属替えで残念なのも、こうして、話せて嬉しいのも、真面目に」
「……」
「君が……友達すら要らないって思ってるのも知ってるよ。君は、ただ一人でいたい人なんだ。構われたくは無いんだろう、誰にも」
「……だったら、何……」
何故急にそんな事を言うのか。虚を突かれたように怯む。
「けど、記憶も無くてさ、昔の知り合いも家族も分からなくなって、……一人でいたくなくても、君は本当に一人だ。僕は、それを知ってる。僕だけが」
「うるさいな」
そんなの自分が一番わかってる。
お前にここで言われなくたって。
分からない事があっても、誰にも聞けないで、一人でやってくしかなかった。
一人で出来る。俺は。これからも。一人で。
黙れ。
「もう、いい」
グッと握った手で袋を突き返して、キーロックを開けようと背を向ける。
班長はその腕をすかさず捕まえて引っ張る。
「ひッ」
動揺し、抵抗する短い声。
「あ……、離せっ……」
「分かった。ごめん、離す」
腕を離し、その代わり、ドアに両手をついた。
海はそのまま、前にも後ろにも横にも動けず、ドアを背にして下を向く。
涙が出そうだ。
「君が本当に一人なのを、僕だけが知ってる。だから、僕はそうしたくない」
優しくて、強い声。
撃たれたように響いて、歯を食い縛る。
「……憶えてない事、お前に言うんじゃなかった」
「僕は教えてくれて良かったと思ってる」
「うるさい」
「君が、よく泣く事も、泣く場所が無い事も、知ってる」
「うるさいな」
「公園で何度も会ったから」
髪にそっと触れてくるのを、顔を背けて避ける。
「分かる」
「……」
溢れそうで、ぎゅっと目を瞑る。
「もう、帰れ」
「こっち見てくれたら帰る」
「……」
顔を背けたまま、薄く目を開け横目で睨む。
「海」
覆い被さるようにドアに手をついたまま、そっと額を寄せる。
互いの髪が触れ合う近さで、ふっと微笑む。
「海」
「……」
額を寄せられたまま、顔を背け、喘ぐ。
「帰れ、くそ野郎」
「ハッ」
班長は、悪態をつかれて吹き出してしまう。
「クチ悪いな。分かった、帰るから」
笑って、突き返して来た紙袋を持たせる。食べ物に罪は無いから無駄にしないでね、と言って、少しずつ後退る。
そして海が部屋のドアを開けて、荷物と一緒に中に入るのを見て安心したように微笑んだ。
「うんじゃあ、クソ野郎は帰ります」
「うるさい。帰れ。酔っ払い」
「食べてね」
バタン、とドアが閉まる。
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