250 / 401
02 ー he ー
51-1
しおりを挟む「こんばんは」
ぴくりとして、ドアを見上げる。
「海。どうしたの。何のメールなの?これ。何かあった?」
頭の上、ドアの向こうで声がする。
走ってきた息が少し荒い。
「ごめん、帰る途中のメールだったから、戻った方が速いと思って」
やばい走ったら余計酒回った、と少し笑っている。
ドッと涙が溢れる。
走って来なくていい。戻って来なくてもいい。
どうして、そんな事をする。俺なんかに。
「ちょっと、出られる?」
「……」
「顔、見せて」
「……」
身体が動かなくて、ドアを背にしてうずくまったまま、その声に息を殺す。
「さっきのメール何?そんなに何度も謝られるような事あったっけ…。いいよ別に。そんなのどうせ、多分僕のせいだろ」
違う。違う。
「ごめんな。何かよく覚えてないけど、怒らせてたっけ、そういえば。何だっけな。ああ……そうだ。無駄な時間だって、言ってたね」
「え」
違う。それはあんたのことじゃない。それは、俺が。
「そうだな。君はいつも迷惑そうだったし……君の時間を随分邪魔してしまった。ストレスもかけてしまっていたし、僕といる時間は、無駄でしかなかったんだろうな……。でも、あんなにハッキリ言われて、アレは流石に堪えたな」
ハハ、と少し笑い声。
「確かにな、こんな、いちいち戻ってきたりして鬱陶しいね。……酔って絡んで、僕は……、あー、ほんとに駄目だ。ごめんな」
違う。違う。そんな事。そうじゃない。あんたの事じゃない。あんたが謝る事なんて何も無いんだ。
「じゃあもう、帰るね。おやすみ。……ほんと、元気でいてな」
駄目だ、薬のお礼だってまだ言えてないのに。俺が馬鹿だから。俺が、何も見てなかったから。
「あっ……の……」
思い余ってドアを開ける。違う、あんたは悪くない。俺が。
「わ」
驚いた顔。
「え、どうして、何でそんなに、泣いてんの」
班長はただビックリしていた。
さっき別れ際、クソ野郎って睨んでたのに、何でそうなったのか。
驚かれて、はっとして慌てて引っ込もうとするのを、咄嗟にドアをガッと掴んで無理に開く。
海は何とか逆らって閉じようとしたが、当然のように力負けして、開いた勢いでバランスを崩し、通路によろけ出てしまう。
「どうしたの……」
「……」
引っ張り出されたような形のまま、背後でドアはパタンと閉じ、薄暗い通路に立ちすくむ。
「顔、見えないから、もう少しこっちに来て……」
ぐちゃぐちゃに泣いて、ただ下を向いている男に話しかける。
「困ったな。……せめて何のごめんなさいだったか、教えて」
「……俺がっ……」
「あ、うん」
「俺が、どうしようもないから……」
「ん?」
「迷惑ばっかりかけて……」
「え、そんな事ないって……」
「気、遣わせて、時間取らせて」
「いや」
「あんたの時間を、俺なんかに費やしてたら、駄目だって」
「え?……え?あ?」
班長は、そこでやっと、誰の何が無駄だと言ってたのかを、なんとなく理解した。
「あ、ああ……、そう……か……」
こんな所に来てていいの、とか、何で俺と帰るの、とか急に意味不明に言っていたのは……
何だ。
そうか、……そうだったのか……。
急に安堵が胸に広がる。
時間の無駄という言い方。
自分と一緒にいる事がそれほどまでに嫌なのかと、もう最悪に拒絶されたかと思っていた。
あれだ。君のいつもの「俺の事なんか」だったんだ。……そうか……。
「なんだ……」
つまりは、全然、君も僕の事を思ってそうしてたって訳……か……。
何でちゃんと言ってくれないのか。何で黙って傘を置いて行くのか。
クソ野郎って追い返しておいて、一人でぼろぼろ涙を流してるのか。
何も変わってない。
逆の事ばっかり言って、ただの分かりにくい、いつもの君のままだった。
馬鹿だな……
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
恋をするなら、キミとがいい
若松だんご
BL
「シズルって、女みたいだよな」
中学の時、そう言って自分を笑っていたのは、幼馴染で友達だと思っていた相手、井高翔太(イダカ ショウタ)。
なんだよ。幼馴染なんだから、そういう噂とかを、一番に怒ってくれてもいいのに。お前が、一番に笑うのかよ。
それまで、「ショウタくん」と呼んでいた相手。その相手の裏切りに、志弦は傷つき、彼とは違う高校に進学し、彼とは違う東京の大学に進学した。学ぶ学部だって、ヤツとか被らせない。
これで、実家に帰らない限り、アイツと人生が交差することはない。
そう思っていたのに。
「今日から、よろしくお願いしまっす!」
志弦のバイト先に入ってきた、同じ大学の工学部の後輩、氷鷹陽翔(ヒダカ ハルト)。
似てるけど、名前も違う。年齢だって。顔だって。
「イダカ」と「ヒダカ」。全然違う。なのに。
――どうしようもなく、アイツを思い出してしまう。
氷鷹の持つ明るさのせいか。それとも、その強引なまでにこっちを引っ張ってく性格のせいか。
離れたい。だけど、状況が志弦を離してくれなくて。
「俺、佐波先輩に何かしましたか?」
志弦の態度に不審がる氷鷹。でも、「なぜ」も「どうして」も説明できなくて。
「ゴメン。キミは悪くない。悪くないんだけど……」
氷鷹と仲良くやることはできない。どうしても過去を思い出して、苦しいんだ。
そんな志弦の態度に、めげることなく距離を縮めてくる氷鷹。
「俺、ちょっくら役所行って、名前、変えてきます! ついでにその〝イダカ〟ってヤツも殴ってきていいっすか?」
志弦のために。志弦と仲良くなりたいから。
そんな氷鷹の態度に、硬く閉じこもっていた志弦の心はほぐれてゆき――。
「オレ、氷鷹に会えてよかったよ」
過去のことは彼に出会うために、彼を大事に思えるようになるために用意されてた、ただのステップ。
そう思えるようになった志弦は、氷鷹の差し出す手を、自ら掴む。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
俺と父さんの話
五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」
父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。
「はあっ……はー……は……」
手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。
■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。
■2022.04.16
全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。
攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。
Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。
購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!
身体検査が恥ずかしすぎる
Sion ショタもの書きさん
BL
桜の咲く季節。4月となり、陽物男子中学校は盛大な入学式を行った。俺はクラスの振り分けも終わり、このまま何事もなく学校生活が始まるのだと思っていた。
しかし入学式の一週間後、この学校では新入生の身体検査を行う。内容はとてもじゃないけど言うことはできない。俺はその検査で、とんでもない目にあった。
※注意:エロです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる