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02 ー he ー
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しおりを挟む秋晴れの良い天気がずっと続いている。
班長は今日も、食堂のメニュー写真をじっと見つめていた。
昼食のあと、また上司に端末と会議資料のお使いを頼まれ、食堂に届けに来ている。
あのオッサンは食堂が好きなのか、いつも他の部のおっさん同士で、ランチミーティングよろしくあれこれ雑談しながら食ってる。
会議に直行したいなら荷物持って出ればいいのに、僕は別に秘書じゃないんだから、そんな場に行きたくないよ、と入口でため息をついていた。
行きたくても、行かないようにしている場所があるのに。
暑さの中に涼しさが混じって、気候もちょうど良い時期。
こんな季節は何処か、空気の澄んだ場所に遠出でもしたいな、と思う。
けれど、出掛ける事が好きでもない僕の大事な友人とは特にそんな予定も約束もなく、毎朝の駅での挨拶と、仕事での最低限のやり取りと、体調の見守り程度の毎日を送っている。
バナナを買ったとかいう連絡を貰って、やっと食事に関心が出たのかなと安心した部分と、あれから何となく、接触禁止令みたいなものを自分に課していて、もうあまり彼にうるさくするのも、必要以上に屋上に行くのも、控えていた。
元々彼の方も、わざわざ来なくていいといつも気にしてくれていたのだし、うん、会うのは、週末だけにしよう。そしてその時間を今まで以上に大事にしよう、と決めた。
彼が、僕の言う事を聞いてくれているという安心感と信頼。
……そして、言う事を聞かせてしまっている——意に沿わなくても——という引け目がそうさせていた。
傍にいれば、触れたくなる。どうしてもあれこれ構いたくなる。
けれど、それが彼のストレスになっていたと気付いて、改めて、距離を置いて、彼を彼としてきちんと扱ってあげなければ、と思った。
言う事を聞いてくれるのは信じてくれているからと思うと嬉しいけれど、言う事を聞かせて自分の良いように作り変えたい訳じゃ無い。彼はあの彼だからいいんだ。
触れられない、独特のムードを持った存在感、少し悲しげな空気感、佇まい。多分、そういう所に魅かれたんだ。
近寄って大丈夫か、触れて大丈夫か、一人の世界を壊していいのか、危うくて心が揺れる。
そういう所も、彼に引っ張られた理由だったのだから。
彼の世界。
雨の降る、静かな世界。
雨の中、緑の公園を散歩する姿。その静かで美しい情景を思い、雨もいいな、と思った。
自分は走るのが好きだから、やっぱり晴れの日が気持ちいい。
雨の日なんて、道がぬかるんだり、煙って前が見えにくくなったり、はたまた、ひたすら屋内で筋トレするよう言い渡されたりの、面白くもない印象がある。子供の頃も、遊びに行くのが取りやめになって悲しく憂鬱な気分になる事もあった。
だから、ただ静かに雨の中にいる事が良いなんて、そんなに考えた事はなかった。
雨。
屋上で彼が一人でいたのを見た日。
ずぶ濡れの彼を見つけて、傘を持って送ってもらった日。
公園で一緒に虹を見て、君が笑うのを見た日。樹の下で同じ傘に入って、少し話して…、
そして、傘を落として、雨の中を逃げていかれたこと…。
ささやかで、いつも少し胸が痛いような、君のいた、雨の景色。
雨が降ると、彼を気にして、今日は体調悪くしてないだろうかなんて思っていたものだった。
今は、雨じゃなくても、いつでも、君はどうしてるかなと考える。
天気の良い屋上でまた、寝っ転がったりしているだろうか。
職場や手洗いで少しの視線を交わすだけの物足りなさを我慢する日々。
もう勝手に手が出ないように、腕組みする癖でも付けようかと思っていて、こんなスイーツメニューの前でも、腕組みで険しい顔になっていた。
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