海のこと

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02 ー he ー

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急に冷たくなっていく細い手をしっかり握って、その手の甲の薄い被膜シールの端を、少しずつ剥がしていく。

「痛い?」

「……別に……」

海はじっと身をすくめ、息を詰めてそれを見つめる。押さえられた手が微かに震える。

絆創膏の下から、白い手の甲よりももっと生々しく白い肌が、じわじわと現れてくる。
注意深く見つめると、この前よりも傷はきれいにくっ付いて、透けるような表皮の奥に、少しだけ紅い色を残して隠れている。
もう少したてば、その色も落ち着くだろう。

「うん、もう綺麗になってる」

班長はそう言って丁寧に剥がし終える。

「治ってるよ。深く切らなくて良かったな」

「……あ……どう……も……」

海は酷く緊張して、握った手からその速い脈が伝わって来る。
班長は黙って、けれどその手を離さない。

物凄い緊張。


……やっぱり、まだ、怖いのかな……。


「海」

手を握ったまま静かに呼びかける。
ぴくり、と細い指先が震える。
下を向いて、表情が見えない。

「手、冷たい」

「……」

「駄目だったら、言って」

テーブルの上の右手と左手。
両方の手を取って、自分の両手で包んでみる。ぎゅ、と握る。

海がいっそう身体を固くする。

「だっ……」

一度そう言って、辛うじて飲み込む。
ぴたりと身体を固くして、脈がさっきよりもめちゃくちゃに速くなってる。

「……」

耐えてくれている。我慢させている。

僕のことは大丈夫だと言ってくれて、そこから始まった、あの時の言葉を信じてはいるけれど……

やっぱり、まだ全然、厳しいか……


重ねた手で、鼓動で確かめる、体温。
入浴させて、食事させても、こんな風にこの手はすぐ冷たくなる。
だからいつも、こうして温めてあげたいのに。


ふ、と笑って、名残惜しく手を離す。

海は解放されて、初めて呼吸をするように、は————っ……と息をついた。

「大丈夫?」

「……うん……」

まだどきどきしているような息遣いで頷く。

「……大………丈夫……、と……友達……だし……」

喘ぎながら、何とか、そう言った。


友達。

絞り出すように、やっと告げられた言葉。

「うん、そうだな」

言い返されて、班長は笑う。


やっぱり分かってない。


あのね。海。

友達ったって、普通、男同士でこんな風に手なんか握ったりはしないんだよ。

本当に、何も分かってないんだ、君は。
 
 
 
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