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02 ー he ー
32-2
しおりを挟むどうしていいか分からないまま、食べ終える。
班長はテーブルを片付け、手伝おうとする海を押しとどめて、食後にまた、コーヒーを作って渡してくれた。
ミルクと砂糖は、好きなだけ。
「かなり少な目には盛ったけど、全部食えたね。安心した」
「ああ……はい……」
気が付かなかった。体調が、戻っている。
班長は立ち上がって体温計を持って来て、もう一度計る。自分の平熱より少し低い数字。
「いつもこれぐらい?」と言って表示を見せると、海はこくりと頷いた。
「もっと低い時もある」
「平熱低っ」
呆れて笑う。
「でも良かった。今度君が倒れたら、またこうすればいいんだな」
「あっいえ、もう、こんな……」
「ん」
「こんな、迷惑…かけられない……」
「いいさ、友達だろ」
君は、俺なんか、ってまた言い出しそうだ。違うからね。
気を遣わせないように、軽い感じに言ってみる。
「あ、ああ……友達……」
「でも、大事な友達だから」
「……」
無意識の自己犠牲と、自分への無関心。
投げやりで放ったらかしの生命。
それを何とかしたい。自分を大事だと思って欲しい。
「大事な人だから」
重ねて言うと、目の前の男は落ち着かなげに、小さくなって俯いている。
気がついていた。
海は、大事だよと言う度に変に狼狽える事。
多分そう言われる事、そう扱われることに全然慣れていないのだろう。
これももう、慣れるまで幾らでも言ってやりたいし、実践もして行かないといけないなと思う。
「迷惑じゃないんだ。僕は、君が大事だし、君が元気にしていると本当に嬉しいから」
海は返事もなくじっと下を見る。
そんなに何度も何度も言われると恥ずかしくて、いたたまれなくて、耳まで熱くなる気がする。
「僕は、お節介が過ぎる自覚はあるからさ。そういう時はまたあんな風に、おいオマエ、って怒ってくれていいんだ。その方が、我慢されるより、僕は嬉しい」
「……」
「だから君もさ、大丈夫だとか、自分は平気だとか言って我慢しないで欲しい。頑張ってるのは分かってるから、無理はしないで欲しい」
「……無理、じゃない……」
少し困ったようにぼそりと答える。
「無理をしてはいない」
いつもの否定。
ああ、そういうのも、無意識か。
いつも、大丈夫だと、平気だと答える。
本人は本当に、無理ではない、もっと出来る、と思ってやってるんだろうな。タチの悪い呪いにかかってるみたいに。
でも、熱出たりして、身体は正直に反応しているんだから気付けよ。馬鹿だな。
「これが平熱で調子良いんだったら、これはこれで低すぎだけどな。代謝も免疫も悪そう。少なくとも平熱上げてこうぜ」
そう言ってまた笑う。
「よく眠って、風呂浸かって、あったかい飯食うと、調子良くなるでしょう。君はもっと体温上げてった方が良いと思う。調子悪いのって雨の続いた日でなんでしょう」
「……」
「気圧のせいでもあるんだろうけど、この時期でも、雨の日はやっぱり寒い事もあるからな。とにかく君は、血の巡りが悪そうだ。調子悪いなと思ったら、温かいものを食べて、あとは睡眠とってな」
「ハイ……」
聞いてるのか、聞いてないのか、どこか遠くを見ている。
ふと気がつくと、今朝どこかに飛ばしたはずの羽毛が、ソファに残っていたのか、また頭ににくっ付いてる。
手を温めるようにカップを両手で持って、風呂から上がりたてのまだ湿った髪に羽毛のカケラを付けて、何となくボーッとしている。
何だか生まれたばかりの雛鳥のような雰囲気をして、あれ、やっぱり可愛いのかな…と錯覚してしまう。
大事な人。
自分が大事だと知らない人。
甘ったるそうなコーヒーを、熱そうに、でも大人しく啜っている。
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