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02 ー he ー
30-2
しおりを挟む「昨夜よりは下がってるのかな?」
班長は手を離して呟く。
海はハッと目を開け、身体を引いた。
「あ、これ、洗います」
食べ終わったカップを手に取ると、
置いといていいよ、と言われる。
「食べたら、また少し寝るといい。汗かいただろうから、シーツ替えるよ」
「か、帰るから、もう…」
立ち上がろうとすると目眩がして、ソファにぺたんと尻餅をついてしまう。
「まだ顔色良くないぞ」
「平気だ」
「いや、昨日だって全然目覚さなかったろ。びっくりした。ちょっとそこで休んでなよ」
そう言って、寝室に入って窓を開け、作業をする。
ブランケット、シーツ、枕カバーを新しくして、少し空気を入れ替える。それから引き出しの体温計を出して、洗濯物を抱えつつ、ちょっとオデコ出して、と言って通りすがりに当てて行く。
昨夜車で額に触った時は少し熱くて、寝かせた時に計ってみたら、やっぱり熱があった。洗濯室で表示を見ると、今日は自分の平熱くらいにはなっていた。
リビングに戻ると、海はまだちょっとボーッとした顔をしていた。
「やっぱり、昨日よりは熱下がってるよ。良かった」
「ああ……」
「ずっと顔色悪かったから、雨の中を帰したせいだって気になってた」
「……別に……」
くらくらしながら呟く。
「……最近、あまり眠れてなかったから……」
ぼそぼそと告げた。
メールや、電話や、初めての色々な事や、沢山のごちゃごちゃした自分の思い。
全部が様々なプレッシャーとなって迫って来て、どうしたらいいのかと一晩中悩む日々が続いていたせいだ。
この間の事があってからは特に、無になろうと神経をすり減らしていたせいもあった。
「そう……」
班長も、自分がストレスをかけていたのかも知れないと申し訳なく思う。
「シーツ替えたから、もう少し寝ていっていいよ。僕はこっちの部屋にいるから、そっちで一人でゆっくり寝るといい」
「え、でも」
「休んでいきな。静かにしてるから」
「……ハイ……」
目眩のおさまらない頭を押さえて、言われた通り、大人しく寝室に戻る。
「楽なカッコに着替えるといいよ。これ、僕のジャージだけど、洗ってあるやつだから」
畳んだ濃いグレーの上下。手渡して、寝室のドアを閉めた。
「ゆっくりお休み」
「……あ、……おやすみ、なさい……」
ドアの向こうから、小さく聞こえた。
「うん」
人がいる所で寝ないと気にしていた人が、おやすみなさい、と自分に言う。なんだか不思議に胸が疼くような気持ちになった。
ドアの向こうで、着替える気配がして、やがて静かになった。
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