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しおりを挟む「神様ねぇ」
子供の頃、合唱団に通わされて、意味も良く分からずに歌った歌。救いをテーマにしたものが沢山あった。
慰問に行った先で褒められてお菓子を貰ったりするのはそれなりに楽しかった。歌うのも嫌いじゃなかった。子供の声が出なくなってきた頃に、ちゃんとした大人向けの合唱団に誘われたが、その頃には走る事に熱中していたので、それ以上は続かなかった。
歌は好きだったが、それを歌うことで誰かを救えたという感覚もなく、歌詞の内容が分かるようになると、死に際しての歌…その時、その人の元に行く人のための…そういう内容が多いように感じられた。
ひたすら罪の赦しを乞うような内容も多い。
死と罪。
自分たちには罪が先ずあって、その人が背負った物は自分達の中にもあると、それを言い続けるもの…のような。
子供のまま亡くなった姉。
彼女も赦しを乞うたのか。
赦しを乞わねば赦してくれないような人の元へ行ったのか。
一体どんな罪があったのか。
古い家族写真の、赤ん坊の僕を抱っこしてくれる小さな手を見て、色々な事を思った。
結局のところ、曲は綺麗だけれど、言ってる事は崇高かも知れないけれど、その教えを守る人達は高潔で立派だけれども、その内容、その感覚は僕にはフィットしなかったのだ。
安らかな死よりも、もっと生を思い、罪や罰の恐怖よりも、もっと明るい事を思いたい。
それで、合唱団はやめたけれど、別で誘われたボランティアは続けた。
歌よりも、具体的に誰かの手を取れる事を、と。
お節介野郎はそうやって育まれた。
それで、ここにこんなにボロボロな奴がいて。
知るごとにボロボロ加減が暴露されて、引っ張られるように、そいつの面倒を見ることに今、熱中している。
彼は、僕の手も誰の手も、必要とはしていないのかも知れない。
僕が勝手に同情しているだけだ。彼も何か一人で歌っているのを聞いた、あのぐらいの頃から。
でも君は、この僕のお節介に付き合ってくれる。少しずつ、何かを返してくれる。
その度に、不思議に幸せな感情が生まれる。
そういうのが心地良くて、今日も君の傍に僕はいる。
「どうする。今日、どこか行きたい所、ある」
「あ…人の居ない所なら…どこでも」
「うーん。この辺だと、やっぱり公園か…それじゃいつもと変わらないけど…」
「俺は、別に」
「あ、でも」
「?」
「花見、しようか」
そう言って海に笑いかける。
「え?今頃?」
「うん。ちょっとだけ」
何だかデートっぽい、と気がついて、急にそんな気分になる。
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