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02 ー he ー
24-2
しおりを挟む帰るのか?まだ全然昼だよ?
公園で花見して立ちプリンしただけだろ?
「え。これっていつもの、ご飯食べて帰るやつ…」
「あー……」
相変わらず天然か!と今更理解する。今日は今日一日デートなんだよ!コイツすぐ帰りたがる。
「晩御飯も一緒に食おうよ」
「ああ……」
「調子悪いなら、いいけど……」
「ううん……」
海は少し悩む。
夜までだとは考えていなかった。
断ろうと思ったが、昨日は仮病みたいに断って結局クヨクヨ悩んだので、またそんな風には出来ないし、そうなりたくはない。
この人は怖くない、と思って、今日はここに来たんだ…
「夜まで…どうするんだ」
「何でもいいよ。またその辺ぶらぶらしてもいいし、何かしたい事、あるかい」
「……別に…何も……」
「まだ紫陽花、見てたい?」
「もう、いい」
「花のとこで写真撮ってやろうか」
「撮ってどうするんだ」
「え?残るだろう?」
「残る?」
「え…、記録っていうか、いつもそういうの、アーカイブしてるだろ、仕事で」
「これは別に仕事でもないし、誰も見ない」
「君が自分で見ればいいだろ。何かの写真、大事にしてただろう?」
「……」
海は一瞬黙る。
それから、そうか、と言って手元の端末を見つめる。
「……じゃあ、花の写真は撮ろうかな……」
そう言って電話のカメラを起動し、一番花が固まって咲いている辺りで何度かシャッターを切った。
それをしばらく見つめて、気が済んだように手を下ろした。
「撮った」
報告するように、呟く。
「いいの撮れたかい」
「うん」
「撮っておけば、いつでも見たい時に見れるだろう」
「うん……」
確認するようにその写真を見ている横顔の、口角がわずかに上がった。
それから、ふう、とため息をついた。
「疲れた?向こうの、ベンチの所に戻って座ろうか」
「そうだな」
そうしてまた遊歩道へ戻り、いつものベンチに少し離れて腰掛ける。
しばらく黙って、遠くなったグラウンドの子供の遊ぶ声なんかを聞いていた。
海は、端末の中の幾つかの画像を俯いてずっと見つめている。
班長はその横顔を見ていた。
(撮ってどうするんだ、って……)
僕は単に、君の写真が欲しいなと思っただけなのに、思い出を残すという考えも無いみたいに言うので、少し驚いた。
かかって来る事のない電話の着信に気が付かないと言った時のように、その感覚が無いみたいなあっさりした言い方だった。
分からない自分の記憶。興味もないと言っていた事。
君の、気にしないものと、気にしているものと、気にしない振りをするもの。
その意識の持ち方は、もう少し学ばないと、まだ分からないな……
「……そういえば、さっきの、買ってもらったお金、払います」
ずっと手元を見つめていた男は、不意に口を開く。
「いいよ。奢り」
「払う。いつも買ってもらってるし」
「いいよ。食べてもらいたかったのは僕だし」
「気が済まない」
「じゃあ、後でバナナ買ってよ」
「それでいいなら……」
「うん。いいよ。今日は全部一人で食べてたのも嬉しいし」
「あれくらいなら食える」
何だ、半分手伝わせようとしたくせに。でもちゃんと全部食べたのは良かった。
「どうせあれで今日1日分とか思ってるんだろ。残念、夕食もあるんだからな」
「……」
口をへの字にして黙るので、笑ってしまう。
「でも最近、仕事が終わった後も倒れてないみたいだから安心してる」
「ああ……そうかな……」
海も、それは事実なので素直に頷く。
ここの所、変に気を張ってるせいだ。ぐちゃぐちゃ悩んでいるのを、仕事に影響させたく無いんだ。
ちゃんとして、立っていないと、バランスがおかしくなってるから。
「僕は、ちゃんと食べてくれてるからだと思ってるよ」
「……食わされてるから……」
「うん。食ってくれてる」
班長はまた、あの犬みたいに、嬉しそうに笑う。
「とにかく君は、元気でいなさいよ」
「……分かってる…」
海もまた目を逸らす。
何をそんなに、嬉しそうに、笑うのだろうと思う。
晴れてるけれど、木陰があって、雨上がりのしっとりとした涼しさもあって、心地いい風も吹いて来る。
静寂の中、梢の揺れる音と、遠くに子供の声。
……隣に、親切な人。
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