海のこと

文字の大きさ
上 下
174 / 401
02 ー he ー

24-2

しおりを挟む
 

帰るのか?まだ全然昼だよ?
公園で花見して立ちプリンしただけだろ?

「え。これっていつもの、ご飯食べて帰るやつ…」

「あー……」

相変わらず天然か!と今更理解する。今日は今日一日デートなんだよ!コイツすぐ帰りたがる。

「晩御飯も一緒に食おうよ」

「ああ……」

「調子悪いなら、いいけど……」

「ううん……」

海は少し悩む。

夜までだとは考えていなかった。
断ろうと思ったが、昨日は仮病みたいに断って結局クヨクヨ悩んだので、またそんな風には出来ないし、そうなりたくはない。
この人は怖くない、と思って、今日はここに来たんだ…

「夜まで…どうするんだ」

「何でもいいよ。またその辺ぶらぶらしてもいいし、何かしたい事、あるかい」

「……別に…何も……」

「まだ紫陽花、見てたい?」

「もう、いい」

「花のとこで写真撮ってやろうか」

「撮ってどうするんだ」

「え?残るだろう?」

「残る?」

「え…、記録っていうか、いつもそういうの、アーカイブしてるだろ、仕事で」

「これは別に仕事でもないし、誰も見ない」

「君が自分で見ればいいだろ。何かの写真、大事にしてただろう?」

「……」

海は一瞬黙る。
それから、そうか、と言って手元の端末を見つめる。

「……じゃあ、花の写真は撮ろうかな……」

そう言って電話のカメラを起動し、一番花が固まって咲いている辺りで何度かシャッターを切った。
それをしばらく見つめて、気が済んだように手を下ろした。

「撮った」

報告するように、呟く。

「いいの撮れたかい」

「うん」

「撮っておけば、いつでも見たい時に見れるだろう」

「うん……」

確認するようにその写真を見ている横顔の、口角がわずかに上がった。
それから、ふう、とため息をついた。

「疲れた?向こうの、ベンチの所に戻って座ろうか」

「そうだな」

そうしてまた遊歩道へ戻り、いつものベンチに少し離れて腰掛ける。
 

しばらく黙って、遠くなったグラウンドの子供の遊ぶ声なんかを聞いていた。
海は、端末の中の幾つかの画像を俯いてずっと見つめている。
班長はその横顔を見ていた。

(撮ってどうするんだ、って……)

僕は単に、君の写真が欲しいなと思っただけなのに、思い出を残すという考えも無いみたいに言うので、少し驚いた。
かかって来る事のない電話の着信に気が付かないと言った時のように、その感覚が無いみたいなあっさりした言い方だった。

分からない自分の記憶。興味もないと言っていた事。
君の、気にしないものと、気にしているものと、気にしない振りをするもの。
その意識の持ち方は、もう少し学ばないと、まだ分からないな……

「……そういえば、さっきの、買ってもらったお金、払います」

ずっと手元を見つめていた男は、不意に口を開く。

「いいよ。奢り」

「払う。いつも買ってもらってるし」

「いいよ。食べてもらいたかったのは僕だし」

「気が済まない」

「じゃあ、後でバナナ買ってよ」

「それでいいなら……」

「うん。いいよ。今日は全部一人で食べてたのも嬉しいし」

「あれくらいなら食える」

何だ、半分手伝わせようとしたくせに。でもちゃんと全部食べたのは良かった。

「どうせあれで今日1日分とか思ってるんだろ。残念、夕食もあるんだからな」

「……」

口をへの字にして黙るので、笑ってしまう。

「でも最近、仕事が終わった後も倒れてないみたいだから安心してる」

「ああ……そうかな……」

海も、それは事実なので素直に頷く。
ここの所、変に気を張ってるせいだ。ぐちゃぐちゃ悩んでいるのを、仕事に影響させたく無いんだ。
ちゃんとして、立っていないと、バランスがおかしくなってるから。

「僕は、ちゃんと食べてくれてるからだと思ってるよ」

「……食わされてるから……」

「うん。食ってくれてる」

班長はまた、あの犬みたいに、嬉しそうに笑う。

「とにかく君は、元気でいなさいよ」

「……分かってる…」

海もまた目を逸らす。
何をそんなに、嬉しそうに、笑うのだろうと思う。

晴れてるけれど、木陰があって、雨上がりのしっとりとした涼しさもあって、心地いい風も吹いて来る。

静寂の中、梢の揺れる音と、遠くに子供の声。

……隣に、親切な人。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

白雪王子と容赦のない七人ショタ!

ミクリ21
BL
男の白雪姫の魔改造した話です。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

俺と父さんの話

五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」   父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。 「はあっ……はー……は……」  手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。 ■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。 ■2022.04.16 全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。 攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。 Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。 購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!

身体検査が恥ずかしすぎる

Sion ショタもの書きさん
BL
桜の咲く季節。4月となり、陽物男子中学校は盛大な入学式を行った。俺はクラスの振り分けも終わり、このまま何事もなく学校生活が始まるのだと思っていた。 しかし入学式の一週間後、この学校では新入生の身体検査を行う。内容はとてもじゃないけど言うことはできない。俺はその検査で、とんでもない目にあった。 ※注意:エロです

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

処理中です...