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02 ー he ー
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しおりを挟む封筒と言っても、封もしていない、慌てて無造作に突っ込んだようなものだ。
何だろうと取り出して逆さに振ってみると、四角い紙片のようなものがはらりと落ちた。
貼って貰ったものと同じ、何枚かの絆創膏。
突然、
何もない部屋の中に、夕暮れの風が吹いた。
木漏れ日の光。
新緑の揺れる音。
……治りますように、と、呟く声。
手に、唇を付けられた。
あれは何だったろう。
触れられた部分に手を重ねる。
あの瞬間、手から全身に何かが走って、涙が出そうになった。
急に胸の奥で何かが起きて、
傷ついた手をぎゅっと押さえる。
あの人は、傷は残らないと言った。
割れた破片も全部捨てて。
それでも思い出は残ると言っていた。
消えない思い出って、どんなものだろう?
何故消えないのだろう?
どうやって思い出すのだろう?
グラスは2つとも割れてしまったのに。
傷は消えても、
身体に染み付いて、心に焼き付いて、消えないもの。
俺の持っていないものを、あの人は持っている。
思い出しかたを、知っている。
あの人はきっと覚えている。
俺が忘れてしまっても。
傷が痛む。
もっと開いて、血が全部流れてしまえばいいと、ほんのさっきまで、思っていたのに。
その傷から全身に、違う何かが拡がって行く。
不思議な感覚。
何だろう。
その部分を押さえて、何が起きているか知ろうとする。
感触。
煙草の匂い。
声。
優しさ。
あの人が、治りますようにと、祈ってくれたこと。
ぐっと、瞼が熱くなる。
込み上げて来る涙を、必死にこらえる。
俺はすぐ剥がしてしまうのに、
あの人はこうして、分かってるみたいに与えてくる。
自分で傷を開いて、ここから消えてもいいと思ってるのに、
こうやって塞ぐものをちゃんと用意する。
掴まれた手。
洗い流し、血を止め、塞いでくれる手。
治るよ、と言ってくれた声。
少し震える手でその絆創膏を拾い上げる。
裏紙を剥がし、まだ血の滲んでいる傷に何とか片手で貼るけれど、傷とパッドが合わずに、ずれてはみ出てしまう。
自分で貼ると、こんなに上手くいかない。
貼りながら、こらえていた涙が堰を切ったようにぼろぼろと溢れ落ちる。
ばさりとベッドに倒れこむ。
上掛けをぎゅうと握り締め、熱くなる瞼を閉じる。
傷の痛み。疼き。
眩暈がする。
付けっ放しの照明が眩しくて、手を上げて光を遮る。
ふわふわふらつく感じがして、何度も寝返りを打った。
この眩暈は、きっと他人の家でずっと緊張していた疲れのせいなのだ。
ただそれだけだと言い聞かせた。
流れる涙の理由は、考えたくなかった。
こんなにいちいち泣くような自分ではなかったはずだった。
気にしなくていいからな、と後で改めてメールが来ていた事に気付いたけれど、沢山の気持ちが混雑して、返事を返せないまま、その週末は過ぎた。
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