海のこと

02 ー he ー

4-4

　
色んな事が切なくなって、また空を見上げる。

ぽっかりと浮かんだ雲は、ちぎれて離れ、形を変えてまた一つの雲になったり、薄く空に溶けて消えたりしていた。
吹く風次第で形はいくらでも変わる。変わって、違う形になって、また別なものをその中に見ようとする。

僕には君は大切な人だけど、君には僕はどう見えているのだろう。

でも…

どっちみち、
好きな人に、自分といても仕方ないだろうとかそんな寂しい事、言わせたら駄目だよな。
僕と一緒にいて良かったと思ってもらえるような事…何か、あるだろうか…


「今日、帰り、覚えてる？」

週末は地元で一緒に食事をしようと言った。その時に話せたら、彼の好みなんかをもう少し探っておこう。
好きなのは、雨。それと空、あそこの公園、一人でいること、甘いもの。
それくらいしか知らない。

「…ああ…うん」

覚えていたのかいなかったのか、分からないような返事をする。
でも、返事はくれた。

「帰りに待ち合わせのメールするよ」

また少し冷や冷やしながら、先に戻ってるね、と言って立ち上がり、階段から作業場へ戻る。

デスクに着いて午後の業務の段取りを見ている間に彼も戻って来て、何もなかったように席に着いた。

椅子が回転すると、屋上で寝転がっていたからか、黒いシャツの背中が少し白く汚れているのが見えた。払ってあげたいなあ、と思いながら午後の仕事をする。

今日、夜、会ってゆっくり話せるんだ。

不安もあるけどやっぱり楽しみで、みんな頑張って今日は一番で終わってくれよ、と心の中で応援する。
海はいつも通りの速さで、集まって来るデータを黙々と処理していた。
そうだ、アンカーの君自身にかかってるんだ。頼むぞ。