142 / 401
02 ー he ー
15-1
しおりを挟む華奢な食器は排水の金属にぶつかり、チリン…と涼しい音を立てて薄手の部分がカケラになって散った。
「あっ……」
茫然としてそのキラキラの破片を見つめ、それから青くなって、取り戻したいように、割れた本体と、欠け落ちた破片に手を伸ばし、急いで拾い集めようとする。
まるで、すぐにくっ付ければ元通りになるとでも思い込んでいるように、必死に。
「あの、あ、すみません、これ…」
「危ないからいい」
大きな声で制止すると、海はびくりと身をすくめ、手に持った本体の鋭くなっている部分が、破片を拾う左手の甲をスッとかすめた。
彼はウッと小さく呻いて、そのまま凍りついたように動けなくなり、青白い手の甲には線を引いたように、じわりと血が滲み出す。
「ほら馬鹿、もうそれ置いて。手、貸して!」
班長はその手をぐいと引っ掴んでガラスを手離させ、破片が入っていないかと、少しの時間水流で洗い流す。
海は反射的に抵抗するが、構わず洗い続けるうちにやがて大人しくなった。
そのまま茫然と立ちすくむ男の服を引っ張って、なんとかソファに座らせる。
酷くショックを受けているような様子だ。
「大丈夫だ、深くない。太い血管も切れてない。手、肩より上にあげといて」
そう言ってから虫眼鏡を使って傷口に破片が無いのを改めて確認し、ティッシュでしばらく押さえさせて止血してから、大きな絆創膏を貼った。
海はその間、手首を掴まれてもずっと大人しく我慢して、下を向いていた。
「あのグラス結構薄いから、深く切れたかと思った。くっつくまでしばらく手の甲突っ張るけど、そのうち治るよ」
「…すみません…」
「大した事なくて良かった。貧血する奴が怪我するなよな」
ふう、と隣に腰掛ける。
海はずっと下を向いて、膝の上で、怪我をした手を握り締めている。
「すみません、割って、しまって……」
「ああ、まあ仕方ない、まだ1個あるからいいよ。僕もビックリさせて悪かったんだ」
「弁償、します」
「いいよ。昔買ったものだし」
海は、はっと顔を上げる。
「昔…?」
「ああ、うん。もう何年か前」
「…もう手に入らないもの?」
「どうだろうなぁ。旅先で買ったから、店がまだあれば…」
旅先と聞いてまた下を向いてしまう。
「何か…思い出があるもの…?」
「…うん、まあ、けど言ったって、前の…」
おっと、とそこで口をつぐむ。
というか、……ああ、君は、それを気にしてくれているのか…
……思い出が、記憶に残る大事なものが、そこにあったのか、という事を。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
俺と父さんの話
五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」
父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。
「はあっ……はー……は……」
手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。
■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。
■2022.04.16
全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。
攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。
Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。
購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!
身体検査が恥ずかしすぎる
Sion ショタもの書きさん
BL
桜の咲く季節。4月となり、陽物男子中学校は盛大な入学式を行った。俺はクラスの振り分けも終わり、このまま何事もなく学校生活が始まるのだと思っていた。
しかし入学式の一週間後、この学校では新入生の身体検査を行う。内容はとてもじゃないけど言うことはできない。俺はその検査で、とんでもない目にあった。
※注意:エロです
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる