海のこと

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02 ー he ー

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玄関に入って、辺りを見回す。

何度か来た部屋。来て、逃げ出した部屋。今日も、呼ばれてここに来ている。

ドアの前で迷っていたあの時とは関係が変わって、今日は、友人…の部屋。

あの時は公園で会って、寒いからおいでと連れて来られた。

今日は友人として招待を受けて、自分で足を運んだ。

友人の家に。

その客として。


寝起きの頭で行動して、ここまで来てそれをやっと自覚する。

急に緊張が芽生えてくる。

「お邪魔、します…」

リビングに入ると、キッチンから料理をしている匂い。

昼にこの部屋に来るのは初めてだ。

明るい窓の外にはベランダが見え、柵の向こうにはあの公園の森が、建物の後ろから新緑の頭を覗かせている。

「さっき、起きぬけだったな。まだ何も食ってないだろ?」

「あ、うん。まだ」

「もう午後だけど、君には朝飯か。でも歩いて来たから少しは腹減っただろ」

そう言いながら、早速買ってきて貰ったジュースを開けて何かしている。

「君が来るっていうのに、デザート作るの忘れてた」

器に入れて、冷蔵庫に仕舞う。

「何か手伝うか」

「いいよ。手洗ってきな。洗面所あっち」

言われた通りにして、手を洗って戻ってくると、ローテーブルにサーモンのサラダと、温めたロールパンが入った大皿が置かれていた。

「座ってて」

言いながら、深皿に入ったビーフシチューを運んで来て、海の目の前に置いた。

「サラダとパンは買ってきたやつだけど、こっちは昨夜から煮たやつ。食って」

「ほんとに料理、するんだな…」

「色々ちゃんとしてないし、普段もそんなにしないけどね。どうぞ。量、このくらい行ける?」

湯気の立つ皿。一筋白いクリームの帯の乗ったデミグラスソースの中に、肉と色々な野菜がごろごろ入っている。
海の分の皿は少し小さめのもので出してくれる。

「はい、熱伝導対策」

カトラリーケースをテーブルに置いて、陶器のスプーンを手渡す。

「あ…」

アイスクリームのスプーンに愚痴った。
思い出したように見上げて来る顔に、班長はうん、とニコニコ笑う。

「どうぞ」

「頂きます…」

「うん。食べて」

班長はローテーブルの向かいに腰を下ろして食べ始める。

「やっぱりさ、肉と野菜、温めて一緒に簡単に食えるのって、バーベキューとか、こういうの位しか思いつかないんだよな。もう少し色々考えてみるよ」

「うん…」

「こういう煮込みも、シチューと、ポトフみたいのとあるだろ。コンソメとか、デミグラスとかホワイトクリームとか、どういうのがいい?」

「あ…何でも…」

「そう。こういうのは食える?ああ、熱いかな?」

言いながら慌てて水の入ったグラスを渡した。

「パンもあるよ。でも今日はとにかく肉食えよ、肉」

「ハイ…」
 
 
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