海のこと

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02 ー he ー

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そういや友人の家族と食事した時、やっとスプーン持てるぐらいのチビッコがこんな風に、母親に見張られつつ頑張って食べていたっけな。ふと思い出し微笑ましく見つめる。
海はそれが何だか恥ずかしくて、食事に集中出来ない。

「見なくていい」

「沢山食って大きくなれよ」

「今更大きくはならない」

「君が食ってるの見ると安心するんだよ。もっと太っていいから、沢山食え」

「沢山は無理だ」

「沢山じゃなくてもいいから、せめて栄養を考えて。レーズンパンだけじゃ人体機能の維持は無理だ」

「だけな訳じゃ無い…」

「取り敢えずタンパク質と鉄分とビタミンを摂って。体温を上げて血の巡りを良くしないとな」

「増血剤を飲めばいいのか?」

「薬?」

即物的な返答に呆れる。そんなに面倒なのか。

「うーん、最低限ビタミン剤でもいいけど、栄養は食べ物から摂った方がいいと思う。僕も別に栄養士じゃないからメニューを作ってあげられる訳じゃ無いが、同じパンを食べて済ますなら、そういうのが挟まってるものにしなさいよって事。君はとにかく、健康第一だ」

「ああ…。アンタは健康そうだよな」

「君もなれるよ」

「俺はいいよ」

「ちゃんと食ってよ。自分の身体大事にして」

「いい。身体は軽い方が動ける」

「元気になってよ。僕の…、大事な人だ」

不意に顔を近くして、声をひそめるようにして言った。

海は、そう言われて、サッと下を向いた。

急に身体中の血管がギュッと詰まるような気がして、脈が速くなる。食べ物がうまく飲み込めない。コーヒーも熱くて痛い。
俯いて、動けない。

「…何で、そんな事…言う…」

やっと出た声も、途切れ途切れに震えている。

あ、と班長は一瞬口をつぐんで、そっと見つめて来る。
何でって、またいつものしょうもない押し問答になったので、つい口から出てしまったのだ。
そんなに反応すると思わなかったから…。

「ごめん。怖い…?」

「怖くなんてない」

以前、優しくされると怖いと言って、公園で一人混乱していた。
今、またその感情の気配がしている。声の震えで分かる。

怖がらなくてもいいのに。
そのために君に好きだと言ったのに。

「僕がそう思うくらいはいいだろう」

温かく微笑んで見つめる。
友達でも、それくらい大事にしたって、いいよな。

「もう、いいよ…」

海は下を向いたまま、目の前にあるものを、苦労しつつちゃんと最後まで食べた。

食べたというか、先に食べ終わって待っているような形になった班長が
「もう少しだ、頑張れ」と冷やかすのを、
「あんたの分だ」とポテトフライを差し出して来たので、残りの殆どを手伝う羽目になった。

そうして何とか全部片付いて、海は、ふう、と一息ついて水を口にする。

「御馳走様…」

「おお。食ったな」

偉いぞ、と子供にするように褒めてもらって、居心地が悪いような顔をする。

「コーヒーもう一杯飲む?」

「いや、もう、無理」

「そうか。このあと、どうする?」

「え。帰る…」


え?

帰る??


「どこか、寄らないかい?」

「食事して帰るって言った」

班長は、んー、と腕組みをした。そうだ、確かに僕は最初、そう言ったな…言った…。
そうか…。

自分では何て言うか、デート…的なもののつもりだったけど…まあ、友達なんだけど…、そうだけど、それでもさ…。

このヒトは、真面目なのか、とぼけてるのか、変わりもんなのか、冗談なのか…いや、真面目な子なんだよな…、それは、知ってる…。

「ああ…そうだな。じゃあ、…帰ろうか…」

もう少し話したかったのに、今日はこれでオシマイか、と苦笑いして会計に立ち上がった。
 
 
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