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02 ー he ー
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しおりを挟む朝。
陽の差さない寒い部屋。
まだ暗い中、電話にセットしてあるアラームで起きる。
時計もあるが、落としたか、叩き過ぎたか、鳴らし過ぎたかで壊れている。朝が弱いので、結局壊して買い直すのが面倒でそのままに置いている。
電話のアラームでいい。セットしておけば一定間隔で何度も鳴らしてくれるので、特に不自由しない。
朝が弱いのに早起きするのは、朝にシャワーを浴びるためだ。
寝ている時はひたすら丸くなっているので、起きるといつも寝癖が酷い。
ずっと眠っていたい。
眠っていると、自分の事も、記憶も、知らない過去も見えない未来も、寂しさも、苦しさも、全部どこかに隠れる。
嫌な夢や怖い夢を見ても、夢なんだ、と思うことが出来る。
睡眠は、日々蓄積される疲労を何とか回復するためのものであると同時に、しんどい現実世界から逃れるためのささやかな避難場所でもあった。
一度、写真を失くしかけた時に、控えがあるといいと言われたので、写真をカメラで撮って、電話に保存した。
最近は、その写真の、空だけをトリミングした画像を見ながら眠りにつく。
夢に出て来てくれないかと思いながら、いざ夢の中では、ゆっくりと空を見上げる場面など訪れなかった。
電車に乗る時は、奥の連結の近く。
人の出入りが少なくて、壁にもたれる事が出来る。
ここでずっと目を閉じていれば、何も無い世界に埋没出来る。沢山の人の中で、辛うじて耐えていられる。
大勢の人間は本当に苦手だった。
見られたくも無い、誰にも会いたくも無い。話す気も無い。
けれど、他人の会話を聞く事は好きだった。
自分が持ち得ない、普通の会話、家庭や家族の話、学校や友人の話など、楽しげな内容や、親愛のあるコミュニケーションが物珍しくもあり、その暖かみが好きだった。
彼らは楽しそうだ。
自分に何も無い分、余計にそう思った。
仕事は何とかやっている。
保護局の担当が端末の使い方を教えてくれて、ここの仕事を紹介された。データチェックとシステム登録。
仕事は好きな方だ。余計な悩み事から逃れて没頭できる。ただひたすら集中する。集中し過ぎて具合が悪くなり、たまにケアレスミスをしてしまって注意を受ける。
体調のせいで簡単なミスをしてしまうのが情けなく恥ずかしい。あまり集中し過ぎないようにしなくては、と思いながら、仕事が終わった後は消耗しきって、ロッカー室で一度休んでから家まで何とか帰る。そういう日も多かった。
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