80 / 401
01 ー nothing ー
33-3
しおりを挟む「気をつけてな」
班長は、公園を出て行く細い後ろ姿を見送って、彼の言う「優しさの怖さ」について、帰り道をゆっくり辿りつつ、考えた。
人を怖がる。優しさを怖がる。
怖いから一人でいるのに、それを追いかけて優しくしたくなる。そしてまた怖がって逃げられる。
キリのない無限ループだ。
自分の中でも、色んな気持ちがぐるぐると回っている。
この間、何故なのかと聞かれて、初めて意識的に考えた。
この気持ちは何なのだろう。
心配。同情。義務感。
頼りない、可哀想な人を、憐れみ労る気持ち。最初はそうだ。
それと、相手を寄せ付けようとしない人への興味。面倒な奴だなと思った事もあった。
けれど近付いてみて分かった、彼といると時折感じる、不意の柔らかい空気。思い出す感情。
それをもっと感じたいという気持ち。
彼には「気に入ってる」という言い方をした。
他に上手く言いようが無かった。
今もそうだ。
崩れそうな気配とか、戸惑いながら少しずつ解けていく様子を、傍で見ていたいと思う。
彼に対して思う、傍にいて見ていたい、触れたい、声を聞いて、そして少しの愛情を与えたい、というのは、気に入ってる以上の感情では無いのだろうか。
好奇心のような、違うようなもの。
友人になりたい?
何かこう、励まして、傍にいて、
いつも…何か、こう…、こう…
友人…?
てことは、友情?
友情じゃ、無いんじゃないか。
どっちかっていうと、同情混じりの愛情…
愛情…?親切心…
優しいのが怖いと言っていた。
優しさを怖がるのなら、怖く無いように優しくしたい。
触れられるのが怖いと言うなら、怖く無いように触れてやりたい。
愛情であるというなら、
これは捨て猫に持つような感情にも近い気が…
「うーん…」
自宅に着き、上着を脱いで、彼の居たソファにだらりと腰掛ける。
いつもの癖で理屈っぽくゴチャゴチャ考えても、自分にもよく分からない気持ちは誤魔化しようも無かった。
見ていたいと思うのは、何だろう。
雰囲気、空気。そんなの見えはしない。
では見た目がそんなに良いだろうか?
あれが?あの痩せっぽちの無愛想が?
すぐ下を向くし、顔を背けてすぐ目を逸らす。
いつも見てるのは髪と顔色と手。
たまに見える目。
別に何がどうって事ない、人としては標準よりかなり弱くて怖がりの、駄目な生き物だ。
怖がるから、避けられるから近寄りたいのか。
触ってはいけないから、触りたくなるのだろうか。
色々な気持ちがあちこちで混乱していた。
だって、触られたくないというのに、急に自分からくっ付いて来て、優しいのが怖いとか、訳の分からないあいつが悪いだろう。
怖がるな、と背中をバンバンバンバン叩いてやりたい。
しっかりしろ、頑張れって。
そんなに沈み込むなって。
そしてまた、屋上で俯いていた姿を思い出し、消えたいと呟いていた事を思い出す。
ちゃんと家まで帰っただろうか。また部屋で泣いたりしてるんだろうか。
声も出さず、誰の助けも呼べず。
そうしたら、やっぱり…
あの薄っぺらな背中を、叩くよりは、そっと支えて、励ましたいと思ってしまう。
優しくしたらしたで、また逃げられてしまうんだろうけど…
「駄目だな」
同じ事ばかり考えて堂々巡り。
自分もいい加減、どうにもなれないな、と苦笑いした。
もうここまで。
今日は大人しく風呂に入って寝る事にしよう。
どんなに考えても、分からないものは分からない。
彼の気持ちも、自分の心の動きも。
答えが無いなら、無いでいい。彼にもそう言った。
答えが出ないから、その先が面白いって事もある。
正解じゃなくても、正解だけが答えじゃないって事もある。
それはいつかきっと、
流れ星のように、心にスッと落ちてくる。
その瞬間を、大事なものだけを見逃さないようにいよう。今はそれだけだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
俺と父さんの話
五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」
父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。
「はあっ……はー……は……」
手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。
■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。
■2022.04.16
全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。
攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。
Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。
購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!
身体検査が恥ずかしすぎる
Sion ショタもの書きさん
BL
桜の咲く季節。4月となり、陽物男子中学校は盛大な入学式を行った。俺はクラスの振り分けも終わり、このまま何事もなく学校生活が始まるのだと思っていた。
しかし入学式の一週間後、この学校では新入生の身体検査を行う。内容はとてもじゃないけど言うことはできない。俺はその検査で、とんでもない目にあった。
※注意:エロです
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる