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01 ー nothing ー
32-2
しおりを挟む「……」
海は、しばらく沈黙する。
それから、やがて小さな声で答えた。
「…怖い…」
ああ…
「…そうか…」
初めて、本当の気持ちを聞いたように感じた。
怖い、と。
「すみません…」
「じゃあ、僕はいつも無理させていたのか。…謝るのはこっちだな」
怖がられていた。
…けれど、傍に来てくれた事もあったのに。
背中に寄り添って来た事も、あったのに…?
俯く髪に隠れて、表情が見えない。
「この間、泣いてたのは、何故?」
「……」
顔を逸らす。
「僕が、優しいから、と言ってた」
「……」
「優しいのが、怖いの…?」
優しい声で、そっと覗き込んで来る。
「優しいのが…怖くて、…何で、泣いていたの?」
海は、ぐっと言葉に詰まった。
胸に、喉に、
また、何かがつかえて込み上げる。
そんなの、分からない。分かるもんか。
ただ感情が高ぶるんだ。
それが嫌なんだ。コントロール出来ないのが。
見られたくなくて、顔を背け、弱く首を振る。
…駄目だ、
また、みっともない事になって来ている。
また逃げたくなって、
カップをガチャリと置いて、立ち上がる。
向かいの男もつられて立ち上がる。
「帰るの」
「帰ります…」
班長は急に逃げて行こうとする彼を見てただ立ち尽くす。
この前と同じように、またグラグラと揺れている。
引き止める事は出来なかった。
「大丈夫…?」
「…お邪魔しました」
俯いて上着を手に取り、部屋を出て行く。
今日はドアに鍵もかかっていない。
ガチャン、バン、と音がして、男は去っていった。
ふう、とため息をつく。
「難しい…」
普通の難しさじゃない。
多分、素直過ぎて、難しい。
嘘はついていない。彼は、複雑過ぎるんだ。
人が怖い。
僕の事も怖い。
優しいから怖い。
怖いから逃げる。
逃げ帰って泣く。一人で。
人が怖いから、一人で。
「人が…怖い…」
人の何が怖い?助けの手に怯えるほど?
優しさが怖い?僕の?
けれど、怖かったのか。
何かまた僕は近づき過ぎたのか。
誰かの肩を借りて泣きたいのなら、そうしていいのに。
手を出してと言えば差し出すけど、
指先を残して引いてしまう。
家においでと言えば来てくれるけど、急に出て行く。
いつも最後には逃げていってしまう。
怖がる事なんかないのに。
「分からん」
複雑なパズルを解きかねて、テーブルを片付け始める。
彼が手だけ温めて置いていった、二杯目のカップ。
口を付けて味見をしてみるとやっぱり甘過ぎて、自分の飲んでいる紅茶に足してみたら丁度良くレモンティーになった。
ほら。こうして混ざり合って、より美味しいものになるのに。
人と人も…
それでも彼は、あんな甘いレモネードが良いんだろう。
一人で悩むことにエネルギーを使い過ぎて、砂糖漬けになるまで気付かないのかも知れないな…と笑う。
ふと彼の腰掛けていたソファの足元の買い物袋に気がつく。
忘れ物だ。
「あ、馬鹿だな」
中身を見て驚く。電球。
あの時間に買いに出たという事は、無いと困るような場所のものなんだろう。3つも。
これが無いと今日、3カ所も真っ暗なんじゃないだろうか。大変だ。
すぐ追いかけようと荷物を手に取って、立ち止まる。
それから、少し考えて思い立ち、ポットの湯で携帯魔法瓶に甘いレモネードを作る。
それとマフラーを手提げに入れ、自分はきっちり上着を着込んで家を出る。
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