海のこと

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01 ー nothing ー

24-2

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そうして二人で手分けしてしばらく探したが中々見つからなくて、何度も上司と連絡を取って確認したが、そこにあるはずの一点張りだった。
そう言われても、このリスト通りに史料が収納されてないのではと思うぐらい見つからない。

史料室は広い倉庫のようになっていて、担当区域別にファイルされた古い紙資料が保管されている。電子化が進んでいない場所や、むしろ電子化を避けた物の現物などが保管されている。どれも古い物ばかり。
沢山の過去の記録。そういう物の雰囲気、海がこの倉庫を気に入るのはわかる気がする。

「けど多すぎるんだよなぁ」

ため息が出る。自分達には関係のない資料。どこか遠い所の地歴や歴史文化、人口推移。
もちろん、海にも関係が無いから、ここのデータを触る事を許されているのだと思う。

別の支所なら彼の事が分かる資料が保管されているだろうか。
海もそれを考えたことはあるのだろうか。

ただ、彼は以前も「興味がない」と言っていた。実際に知りたいとは思っていないのかもしれない。
けれど、あのよく分からないと言う写真にあんなに焦る所を見ると、本当はどうなんだろう。

室内は乾燥していて少し埃っぽく、遠くの方で海が咳をしているのが聞こえる。
しばらくあちこち探しているうちに、ここはちょっと空調が効き過ぎているな、と気付く。
中の湿度調整の為に仕方ないのだが、それにしても冷気が強い気がした。

上司にもう一度確認しに行きがてら、自席の椅子に掛けっぱなしていたジップアップの上着をひっかけて戻る。少しはましになったが、あまり長い事居たくないな、と思う。

これはいつまで探してもらちがあかない。
リストが古いか、現物処分済みか、他の作業所に間違えて移送されてしまったかという事もある。一旦打ち切って、その辺の可能性を考えてもらおう。

「海、もう出よう。本当にここに置いてるのか、ちょっとあのオッさんに相談して来るよ」

返事がない。裏手に回って探す。
もう一度声を掛けるが応答がない。

「海?」

蚊の鳴くような声で、ハイ、と聞こえる。
声のした方へ行ってみると、棚の下の方でしゃがみ込んでいる彼を見つける。
 
「あれ、どうした」

「ここ探してます…」

下段の棚に手をかけ、何でもないように答えるがうつむいたまま動かない。
急いで歩み寄り、距離を置いて声をかける。

「具合、悪いのか」

「平気です…」

嘘つけ。顔色がひどい。
雨が降る日は、体調を崩しがちな彼。今日はそんなに調子が悪そうに見えなかったし、すぐに探せる物だと思って手伝いを頼んだのに、こんなに時間がかかるとは思ってもみなかった。しまったな。

「今日、この中寒くない?」

水を向けてみると、小さくうなずいた。

「寒い」

「貧血?今日調子悪かったか」

「…頭が痛い…」

強がりも出なくなった。そのまま下を向いてしまう。

「そうだな、ここちょっと空調効き過ぎてるよね。君はもう出ていろ。これ」

自分の上着を脱いで頭から覆ってやる。小さく声を上げ、びくりと首をすくめたが動けない様子だった。

「立てるか。出よう」

凍える男の手を引っ張って、被せた上着の上から肩を抱いて立ち上がらせようとする。
ひ、と声にならない悲鳴。

 
 
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