46 / 401
01 ー nothing ー
23-1
しおりを挟む昼休み。
晴れた屋上。
いつの間にか、暑いだけの季節は過ぎ、少しずつ過ごしやすい日が増えて来ている。
海は、フェンスにもたれてずっと空を見ていた。
雲の形、空気の色が変わって行く季節。
夏の眩しさや色の濃さも、今の時期くらいから透明感が加わって、少しずつ薄らいで行く。
どんどん透明度を増していって色が離れていく感じがする。
この先は、そのまま色を失っていって、いつしか色のない冷たい冬が始まる。
色彩を保ちながら透明になっていく今の時期が、一番美しいと思う。
あの透明に溶けたい、といつも思う。
雲になってもいい。飛んで、どこまでも行きたい。行ってしまいたい。
この前の衛星みたいに一瞬で消えるのもいい。
長く引きずる苦しみや寂しさは必要ない。
写真を一枚、取り出して晴れた空にかざす。
今日のこんな色じゃない。
こんなに鮮やかで眩しい色じゃない。
もっと優しい昏い色。
写真の中の空。
尞の子供が歌っていた歌は、まだ思い出せなかった。
班長は昼食から戻って、煙草を吸いに屋上に上がった。
何だかんだで、こもった満員の喫煙所よりは、あの公園や屋上のような、空気の綺麗な広い場所で吸うのが一番うまいと思う。
その空気を汚してるのが貴方でしょう、と、昔彼女に言われた事があって、グウの音も出なかった。
その子と付き合ってる頃はメンソール系で抑えていたが、煙草の後のキスは少し嫌がられた。
何だかんだあっても、この人とずっと一緒にいられたらな、と思っていた人だったのに。
この季節はいつもふと思い出してしまう。
みんなに言えたのはだいぶ経ってからだった。
それで、冬の休暇には友人達が残念会をやってくれて、珍しく実家にも帰って、いつか連れて来た子はどうしたと言われてへこんだ。
彼女は今どこでどうしているだろうか…、と思いながら、エレベーターを降りて外に出た。
フェンス際に黒い小さな固まり。
いつもの彼がいる。
フェンスの所に座り込んで、手元の何かを見ている。
彼がいつもここにいるのは知っているが、静かに一人で過ごさせた方がいいのか、脅かさないようにまず声をかけた方がいいのか、最近迷うようになった。
どうしようかなーと屋上の出口で立ち止まり、煙草入れに手をやっていると、向こうが先にこちらに気が付いた。
ぺこり、と会釈して、すぐまた俯いた。
邪魔しちゃいけないなと思い、手を振って挨拶するにとどめ、そのまま段差に腰掛けて煙草を吸い始める。
空が高い。
こういう日は自分も一人でいたい時がある。
放っておいてあげよう、と思いながらちらりと様子を伺う。
あいつ本当に、食事してるのかな。
昼食は最近、班のメンバーが他班の友人を連れて来たりして賑やかだ。
今日来ていた元気の良さそうな赤毛の女の子は、自分と同じセットを頼んでモリモリ食べていて気持ちがよかった。
サイドメニューの違いで取り違えに気付き、必死に謝ってくれるので「いいよ、本当はこれが食べたかったんだよね」と自分のサイドメニューをあげると、嬉しそうに受け取ってくれた。
「沢山食べてていいね」と、全然食べない男を思い出して微笑んだ。
彼は今日もココアなんだろうか。
女の子だってあれくらいは食べるのに、あいつと来たら…
と、気がつくと、海は、フェンスの外に出るドアの取っ手に手を掛けて、ガチャガチャ引っ張っている。
フェンスの向こう?
そっち側に行ってどうする?
慌てて立ち上がり、駆け出した。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
俺と父さんの話
五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」
父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。
「はあっ……はー……は……」
手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。
■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。
■2022.04.16
全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。
攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。
Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。
購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!
身体検査が恥ずかしすぎる
Sion ショタもの書きさん
BL
桜の咲く季節。4月となり、陽物男子中学校は盛大な入学式を行った。俺はクラスの振り分けも終わり、このまま何事もなく学校生活が始まるのだと思っていた。
しかし入学式の一週間後、この学校では新入生の身体検査を行う。内容はとてもじゃないけど言うことはできない。俺はその検査で、とんでもない目にあった。
※注意:エロです
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる