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01 ー nothing ー
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しおりを挟むくたびれた身体で仕事の帰り、いつもの公園に寄る。
雑木林の遊歩道を歩いて、いつものベンチに向かう。
足元に、ざり、という感覚。
蝉の死骸。
こんな季節なのに、ひとりで時期を外れて目覚めてしまったのだろうか。
もう仲間は残っていなくて、
ただひとりで張り裂けるほど鳴いて、
誰かに届いて欲しいと、誰かを呼んでいたのだろうか。
そうして呼びながら力尽きて、地に落ちてむくろとなったのか。
寂しくなって、近くの樹の根元、
手近に落ちていた枝で土を掘り、カサカサした軽い死骸を埋めた。
次は、仲間のたくさん鳴いてる時期に生まれて来い。
こんな、一人取り残された時期じゃなくて、応えてくれる誰かのいる所に。
立ち上がり、土を払う。
明滅する街灯の下のベンチに腰を下ろし、その樹の根元をじっと見つめた。
"またいつか“
"もう二度と“
その狭間でみんな、生きていて、いつか、終わる。
こうして、終わる。
誰が俺のむくろを埋めてくれるだろう。
産まれる時は母親と一緒の作業だが
死はたった一人で迎える、孤独な作業だ。
人が最後にする、仕事。
何かを残すのか。何も残らないか。
そうだ。
俺は、あの蝉のように、誰にも知られず、一人で死ぬのだろう。
俺はきっと何も、残さない。
きれいに消える。
俺の事も、その記憶も、跡形もなくそこで全部終わるのだろう。
全部終わればいい。
何も誰にも残せなくても。
俺には、何も無いし
誰もいない。
それでいい。
空を見上げる。
あの中に溶けて行きたい。
カバンの中の、誰かの写真。
誰でもいい、一人でも思い出せたなら、
その人を思いながら終われるのに。
カバンの上にじっと手を置いて、
そしてその手がただ、どんどん冷たくなって行った。
夜の中。
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