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01 ー nothing ー
22-1
しおりを挟む急な寒気が入ったのか、季節の割に冷たい雨の降る日。
班長は、朝からの会議で、少し早めに出るために支度をしていた。
端末のニュースで、今日の夜に人工衛星を一基処理するというのが片隅のヘッドラインに上がっていて、そうか、ああいうのは、こっちの天気関係なく上空で焼くものなんだなと、パンをかじりながら、眠たい頭でボンヤリと感心する。
海、知ってるかな。
会議で現状の運用について報告させられた後、業務は順調であり、もう少し作業員を増やす予定だったそうだが、この状態で行けるならそれ程増員せずに済みそうだと言ってもらった。
「君の班は順調ですか」
うちの班には厄介者が居るからと思われているのかも知れない。そんな事ないぞ、みんな頑張ってる。
「はい。特に問題なく、皆さんきちんとやってくれています」
班長はにこやかに頭を下げ、会議室を出た。
朝の電車では会えなかったので、昼食を終えるとすぐ、彼を探して屋上へ行った。
いつものように、雨の中、黒い姿が給水塔の下にぽつねんと座って、缶の飲み物を飲んでいる。
「こんちは」
声を掛けてみる。聞こえているのだろうけど、さっぱりこっちを向かない。
よいしょ、と、少し間を空けて腰掛ける。
海はこちらを見ないまま、もう少し距離を空ける。
「今日ちょっと寒いね。こんな時期なのに」
「はい」
「雨も降ってるし、体調大丈夫ですか」
「はい」
下を向いたまま、返事は短く返って来る。
「今日、また人工衛星、落とすらしいよ」
そう言うと、彼が顔を上げる。
「18時位に大気圏に入るって。仕事終わりに丁度見られる位じゃないかな」
「へぇ…」
へーでもフーンでも、反応をくれる。
やっぱり天文関係は好きなんだな。
「雨、夜には止むんなら、帰りに見に行けば」
「そうですね」
「メシ食ったの?」
「適当に」
今日もアイスココアの缶を持って立ち上がり、エレベーターホールに消えて行った。
素っ気無い態度がつまらな過ぎて、今日も挟まって笑わせてやろうかと思った位だった。
夕方、予報通り徐々に雨の降りは弱くなり、終業の頃にはすっかり収まっていた。
今日の業務も他班より早めに終わる。
今日は自分も早めに上がろうと思って、窓の外を確認する。
夕方のビル街は、傘をさして歩く人も居なくなっている。良かった。雲も少しずつ晴れている様子だった。
早々に帰っていった他のメンバーと時間をずらしてロッカー室に向かう彼に声をかける。
「海」
「あ、ハイ」
名前を呼ぶと気がついてくれる。
2人の時にしか呼んでいないのに、やっと最近、反応してくれるようになった。
「衛星、見に行くの」
「あ」
忘れていたような反応だった。
「でも、雨だし」
「もう止んでるみたいだよ」
「そうですか…」
二人、ロッカー室で帰り支度をして、荷物を取りロッカーを閉じる。
「見るなら、橋の向こうのタワーに行くといいよ」
「?」
一緒に外に出ると、寒気はまだ居座っているらしく、雨は上がっても気温は低いままで、夜は半袖シャツでは少し寒いくらいだった。
「ここの近くに50階のビルがあるんだけど、観光客向けに展望台のようになってるんだ。知らないか」
「この辺のことあまり知りません」
「あの辺りの一番高い黒い建物」
「黒い…」
指差す方向を透かし見ている。
ちょっと迷ってはいるが、興味はありそうな様子だ。
「行く?」
「え、ああ…ハイ」
「じゃあ、こっちの道が近いよ。行こ」
「え…」
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