海のこと

文字の大きさ
上 下
38 / 401
01 ー nothing ー

22-1

しおりを挟む
 
急な寒気が入ったのか、季節の割に冷たい雨の降る日。

班長は、朝からの会議で、少し早めに出るために支度をしていた。
端末のニュースで、今日の夜に人工衛星を一基処理するというのが片隅のヘッドラインに上がっていて、そうか、ああいうのは、こっちの天気関係なく上空で焼くものなんだなと、パンをかじりながら、眠たい頭でボンヤリと感心する。

海、知ってるかな。


会議で現状の運用について報告させられた後、業務は順調であり、もう少し作業員を増やす予定だったそうだが、この状態で行けるならそれ程増員せずに済みそうだと言ってもらった。

「君の班は順調ですか」

うちの班には厄介者が居るからと思われているのかも知れない。そんな事ないぞ、みんな頑張ってる。

「はい。特に問題なく、皆さんきちんとやってくれています」

班長はにこやかに頭を下げ、会議室を出た。

朝の電車では会えなかったので、昼食を終えるとすぐ、彼を探して屋上へ行った。
いつものように、雨の中、黒い姿が給水塔の下にぽつねんと座って、缶の飲み物を飲んでいる。

「こんちは」

声を掛けてみる。聞こえているのだろうけど、さっぱりこっちを向かない。
よいしょ、と、少し間を空けて腰掛ける。
海はこちらを見ないまま、もう少し距離を空ける。

「今日ちょっと寒いね。こんな時期なのに」

「はい」

「雨も降ってるし、体調大丈夫ですか」

「はい」

下を向いたまま、返事は短く返って来る。

「今日、また人工衛星、落とすらしいよ」

そう言うと、彼が顔を上げる。

「18時位に大気圏に入るって。仕事終わりに丁度見られる位じゃないかな」

「へぇ…」

へーでもフーンでも、反応をくれる。
やっぱり天文関係は好きなんだな。

「雨、夜には止むんなら、帰りに見に行けば」

「そうですね」

「メシ食ったの?」

「適当に」

今日もアイスココアの缶を持って立ち上がり、エレベーターホールに消えて行った。
素っ気無い態度がつまらな過ぎて、今日も挟まって笑わせてやろうかと思った位だった。



夕方、予報通り徐々に雨の降りは弱くなり、終業の頃にはすっかり収まっていた。

今日の業務も他班より早めに終わる。
今日は自分も早めに上がろうと思って、窓の外を確認する。
夕方のビル街は、傘をさして歩く人も居なくなっている。良かった。雲も少しずつ晴れている様子だった。

早々に帰っていった他のメンバーと時間をずらしてロッカー室に向かう彼に声をかける。

「海」

「あ、ハイ」

名前を呼ぶと気がついてくれる。
2人の時にしか呼んでいないのに、やっと最近、反応してくれるようになった。

「衛星、見に行くの」

「あ」

忘れていたような反応だった。

「でも、雨だし」

「もう止んでるみたいだよ」

「そうですか…」

二人、ロッカー室で帰り支度をして、荷物を取りロッカーを閉じる。

「見るなら、橋の向こうのタワーに行くといいよ」

「?」

一緒に外に出ると、寒気はまだ居座っているらしく、雨は上がっても気温は低いままで、夜は半袖シャツでは少し寒いくらいだった。

「ここの近くに50階のビルがあるんだけど、観光客向けに展望台のようになってるんだ。知らないか」

「この辺のことあまり知りません」

「あの辺りの一番高い黒い建物」

「黒い…」

指差す方向を透かし見ている。
ちょっと迷ってはいるが、興味はありそうな様子だ。

「行く?」

「え、ああ…ハイ」

「じゃあ、こっちの道が近いよ。行こ」

「え…」
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

白雪王子と容赦のない七人ショタ!

ミクリ21
BL
男の白雪姫の魔改造した話です。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

俺と父さんの話

五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」   父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。 「はあっ……はー……は……」  手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。 ■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。 ■2022.04.16 全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。 攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。 Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。 購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!

身体検査が恥ずかしすぎる

Sion ショタもの書きさん
BL
桜の咲く季節。4月となり、陽物男子中学校は盛大な入学式を行った。俺はクラスの振り分けも終わり、このまま何事もなく学校生活が始まるのだと思っていた。 しかし入学式の一週間後、この学校では新入生の身体検査を行う。内容はとてもじゃないけど言うことはできない。俺はその検査で、とんでもない目にあった。 ※注意:エロです

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

処理中です...