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01 ー nothing ー
18-1
しおりを挟むそれきり、海とは駅で顔を合わせても、挨拶をしても、黙って車両を乗り換えていってしまったり、作業中に声をかけた時も、頑なにこちらには視線を向けなかった。
自分のせいなのかも知れないと班長は思った。
性に合わない告白と望まない接触にペースを乱されているように見えたのだ。
ぽつりぽつりと、点を打つような話。
それほど沢山の話を聞いた訳ではない。ただ何も無く誰も居ない、という寂しい事情。
沢山の話を聞いた訳ではないが、それは、話すべき事を彼がそれ程までに持っていないからだ…と、その余計に寂しい事実に気付く。
思い出す必要もない。覚えてなくても、生きてられる。
そんな事を言っていた。そういうものなのだろうか。
どうせ、何もない、だから、いい、と言っていた。
班長は業務中に少し中座して上司を訪ね、局が保護した人間の取り扱いについていくつか質問をしてみた。
こんな、地方のたかだか末端の、データ管理部の上司に聞いてもどうしようもない事だが、ここで働いている色んな人の中にも、多分そういう人がいるのだろうから、何か分かればと思ったのだ。
上司が言うには、身元不明者に関してはきちんと調査はしているはずだと、型通りの返事だった。
「誰か不適当な扱いをされている人がいれば、本人の申し立てで訴えが起こせるが、そういった人が誰かうちの所内にいるんですか」
「ああ…いえ…」
詳しい話は知らないし、何より彼のプライベートな事になるので、余計な事は言えない。
「何でもありません。お時間頂き有難うございました」
一礼し、自分のフロアに戻った。
雨が降り出して、海はまた調子悪そうにしていた。
昼の休憩時間。
いつものように、班のメンバーが昼食に誘いに来てくれる。
「班長今日メシどこ行きます?雨だから、どっか近場で」
「あ、ちょっと、用事があるので。今日は皆さんで行って来てください」
「そうなんだ。了解です」
「すみません、また明日」
少し拍子抜けしたようにして外出していく連中を、軽く手を振って見送った。
海に、もう少し詳細を聞いてみようか、話してくれるだろうか、と思って、黒い姿を探したが、彼はいつの間にか消えていた。
思い当たる場所があって、足を運んでみる。貨物用エレベーターの最上階。
けれど、エレベーターホールには居なかった。
「あれ…」
当てが外れて、辺りをキョロキョロ見回してみる。
屋外を覗いてみると、この間の、給水塔の下、雨のかからない場所に、黒い小さい姿が見えた。
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