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1C-2(Amane)
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それから一分と経たずに店の自動ドア
が開いて光也が入ってきた。続いて、先
走っていく子どもを歩いて追いかける母
親みたいな足取りと表情で雛森が入って
くる。俺が軽く手を挙げていると二人と
もすぐにこちらに気づいた。二人がけの
テーブル席の前まで辿り着いた二人は俺
に対して適当な何かの擬音とも取れるよ
うな短い挨拶をしながら、既に照準は天
音の方に合わせていた。
「あなたが寿さん? はじめまして、私
がドラム担当の雛森真琴です。マコで良
いよ。」
肩よりちょっと上のあたりで切りそろ
えたれた男ウケの良さそうなボブヘア、
黒のシャツにベージュを基調としたチェ
ック柄のノースリーブワンピース。俺が
天音に教えていたのはどちらかと言うと
こういうファッションだった。
「あ、どうも寿天音です。じゃああたし
もこともアマネで。」
俺は内心びっくりしていた。あの天音
がちゃんと自己紹介している。てっきり
「うん」と答えたきり何も言わないもの
だとばかり思っていた。なんかこれじゃ
あ俺が天音をバカにしているみたいだが
中学の同級生なら多分かってくれるはず
だ。クラスの自己紹介で名前だけ言って
座って担任教師にもう一セリフ求められ
ても既に机に突っ伏していて起きなかっ
た女だぞ。
「俺は阿部光也、『みっつん』でええ
よ~。」
「うん・・・よろしく。」
相変わらず軽いな。天音も若干引いて
るぞ。あと、そのあだ名で呼ばれてると
ころ一度も見たことない。
サラサラの金髪マッシュにピアス、ロ
ゴの入った白いパーカーと黒のパンツ、
パーカーの裾からは灰色のシャツが斜め
にはみ出しているといった感じでパット
見はチャラ男だ。これだけやっておいて
童貞だから笑えるを通り越して逆に同情
する。
「どうや、とりあえず席だけ移動して昼
飯にするか?」
時間的にも丁度良いと思い提案してみ
た。確かこの店には結構な種類のパスタ
があったはずだ。
「俺は別にええんやけどさあ、大学生の
女の子が二人居るっていうのにこんなチ
ェーン系喫茶店で昼飯って言うのもいか
がなもんかって俺は思うね。」
チャラ男がなんか言ってるが俺は女な
ら誰にでも奢るようなバカじゃないし、
第一財布もそんな相談には聞く耳を持た
ないだろう。
「お前が払ってくれるんならええで。」
「それは割り勘やろ。」
じゃあ提案すんな。
「話もしやすいしここで良いよ。」
雛森とも高校以来の仲だが、未だに標
準語には慣れない。何ていうか、本人に
はそのつもりはないんだろうけど棘があ
るように聴こえるっていうか・・・
やっぱり少し気になって顔色を伺って
みると、光也に向けられた雛森の目には
しっかりと憐れみ成分が含まれていた。
俺は自分の認識が標準語に対する偏見だ
けでなかったことに少し安心する。
「あと、高いところに連れて行かないと
機嫌悪くする女なんかと付き合うもんじ
ゃないよ、ろくな女じゃないから。」
まるで思い当たる人物がいて頭の隅っこ
でそいつのことをあざ笑いながら言った
ような口ぶりだった。まあでも、それに
ついては俺も同感だ。
早速俺は近くに通りかかった白シャツ
黒ベスト黒スキニーのウェイトレスを呼
び止めて席を移動させてもらえるよう頼
んだ。
が開いて光也が入ってきた。続いて、先
走っていく子どもを歩いて追いかける母
親みたいな足取りと表情で雛森が入って
くる。俺が軽く手を挙げていると二人と
もすぐにこちらに気づいた。二人がけの
テーブル席の前まで辿り着いた二人は俺
に対して適当な何かの擬音とも取れるよ
うな短い挨拶をしながら、既に照準は天
音の方に合わせていた。
「あなたが寿さん? はじめまして、私
がドラム担当の雛森真琴です。マコで良
いよ。」
肩よりちょっと上のあたりで切りそろ
えたれた男ウケの良さそうなボブヘア、
黒のシャツにベージュを基調としたチェ
ック柄のノースリーブワンピース。俺が
天音に教えていたのはどちらかと言うと
こういうファッションだった。
「あ、どうも寿天音です。じゃああたし
もこともアマネで。」
俺は内心びっくりしていた。あの天音
がちゃんと自己紹介している。てっきり
「うん」と答えたきり何も言わないもの
だとばかり思っていた。なんかこれじゃ
あ俺が天音をバカにしているみたいだが
中学の同級生なら多分かってくれるはず
だ。クラスの自己紹介で名前だけ言って
座って担任教師にもう一セリフ求められ
ても既に机に突っ伏していて起きなかっ
た女だぞ。
「俺は阿部光也、『みっつん』でええ
よ~。」
「うん・・・よろしく。」
相変わらず軽いな。天音も若干引いて
るぞ。あと、そのあだ名で呼ばれてると
ころ一度も見たことない。
サラサラの金髪マッシュにピアス、ロ
ゴの入った白いパーカーと黒のパンツ、
パーカーの裾からは灰色のシャツが斜め
にはみ出しているといった感じでパット
見はチャラ男だ。これだけやっておいて
童貞だから笑えるを通り越して逆に同情
する。
「どうや、とりあえず席だけ移動して昼
飯にするか?」
時間的にも丁度良いと思い提案してみ
た。確かこの店には結構な種類のパスタ
があったはずだ。
「俺は別にええんやけどさあ、大学生の
女の子が二人居るっていうのにこんなチ
ェーン系喫茶店で昼飯って言うのもいか
がなもんかって俺は思うね。」
チャラ男がなんか言ってるが俺は女な
ら誰にでも奢るようなバカじゃないし、
第一財布もそんな相談には聞く耳を持た
ないだろう。
「お前が払ってくれるんならええで。」
「それは割り勘やろ。」
じゃあ提案すんな。
「話もしやすいしここで良いよ。」
雛森とも高校以来の仲だが、未だに標
準語には慣れない。何ていうか、本人に
はそのつもりはないんだろうけど棘があ
るように聴こえるっていうか・・・
やっぱり少し気になって顔色を伺って
みると、光也に向けられた雛森の目には
しっかりと憐れみ成分が含まれていた。
俺は自分の認識が標準語に対する偏見だ
けでなかったことに少し安心する。
「あと、高いところに連れて行かないと
機嫌悪くする女なんかと付き合うもんじ
ゃないよ、ろくな女じゃないから。」
まるで思い当たる人物がいて頭の隅っこ
でそいつのことをあざ笑いながら言った
ような口ぶりだった。まあでも、それに
ついては俺も同感だ。
早速俺は近くに通りかかった白シャツ
黒ベスト黒スキニーのウェイトレスを呼
び止めて席を移動させてもらえるよう頼
んだ。
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