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1A-2(Amane)

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 薄い壁で簡易的に区切られただけのバ

ックルーム。今朝買ってきたおにぎりを

ものの数分で完食した俺は、現代人らし

く無意味にスマホを取り出し電源を入れ

た。

    指紋認証によりロックを解除されたス

マホの液晶画面には、家の近くで適当に

撮影した夕景の写真を背景に色とりどり

なアプリアイコンが規則正しく配列され

ている。

    ふと、チャットアプリのアイコンに未

読メッセージ六十三件があることをお知

らせする表記があることに気が付いた俺

は、特に何を考えたわけでもなく反射的

にそのアイコンに触れていた。

 アプリが開かれると、『名称未定バン

ド』というグループチャットに六十二件

の未読メッセージがあった。

    あとの一件は以前登録した公式アカウ

ントから出されるお得情報の類だったの

で放っておくとして、俺が働いている間

に大学組のメンバーは六十二件にも渡っ

て一体何を話していたのだろうか。また

慣れた手付きでバンドグループのタスク

をタップする。

光也:来週くらい、一度メンバー全員で

ミーティング的な事やりたいと思ってる

んやけど、どう?

雛森:私は賛成だよ。新メンバーの寿さ

んにもそろそろ会ってみたいし・・・

光也:そうやねん、俺とマコはまだコト

ブキさんの顔も見たことないねん。同じ

バンドメンバーとしてそれはまずいや

ろ。

雛森:皆んな、来週で空いてる日教え

て。ちなみに私は十五、十七、二十日の

夕方からと、あと二十一日は一日空いて

るよ。

光也:俺も十七の夕方と二十、二十一は

空いてる。

雛森:寿さんも、これ見たら予定教えて

欲しいな。

光也:あと賢一もな。

    ここで一旦会話が途切れたみたいだ。

送信時間を見ると次にメッセージがあっ

たのは一時間くらいしてからだった。

天音:二十、二十一日なら大丈夫。

光也:じゃあ二十一やな多分。賢一も日

曜はシフト入ってないって言ってた

し・・・バイト終わったら連絡くれよ。

    その後もどこで集まるかについての話

し合いが繰り広げられ、俺の意思とは無

縁に難波で集まることが決定していた。

まあ、全員の家から距離が等しい場所と

いえばそのあたりが無難か。

    以降も会話は続いていたのだが、ほと

んど光也と雛森が大学の愚痴を言い合っ

ているだけだった。
    チャットの末尾にたどり着いた俺はテ

キストボックスを開き、俺に一切の決定

権がなかったことに対するツッコミを

色々考えてはみたものの、結局なんの変

哲もない必要最低限な文章だけ入力して

送信ボタンを押した。

賢一:二十一日で大丈夫や。

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