津軽藩以前

かんから

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大光寺の戦い 天正四年(1576)正月

見果てぬ夢 19-4

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天正三年(1575)春、田植えがすみ余裕ができたころ。南部信直に対し、九戸政実らは再び反旗を翻した。裏では安東氏が資金援助をし、大浦と九戸の連携も成立させている。

 

 そして……晴れ渡る吉日、八月一三日。
大浦為信は三千の兵を集め、大光寺へと出陣しようとする。沼田祐光はもちろん、後に大浦三家老と呼ばれる兼平綱則、森岡信元、小笠原信浄もいる。知恵者の八木橋や仏門の乳井ら含む大浦家臣団はここに集まった。さらに浅瀬石の千徳政氏も加わる。

 敵は大光寺城の城代、滝本重行。武勇知略に優れ、為信を倒さんと企む相手。田舎館の千徳政武も滝本に味方した。千徳は本家と分家で対立するに至る。

 辰の刻、大浦軍は真新しい旗を掲げた。以前の様に南部の旗は使えぬ。二羽鶴の文様は、全て燃やした。


 ……白地に赤く描かれたのは、錫(しゃく)杖(じょう)の先。岩木山の加護に預かり、津軽を征することを示す。何百も掲げられ、新生大浦家の初陣を飾った。

 そんな中、小笠原は一本の旗を持参した。丸められたままで中は見えないし、少し古びているように感じられる。為信は“構わぬ”と申し、改めさせた。

 
 褐色に化した布地に、黒い墨で “卍” が描かれている。小笠原は言った。

 「……津軽を平らげることは、万次の意思です。」

 

 為信は許した。何百もの錫杖の中に、一本だけ馬鹿でかい “卍” の旗が掲げられる。


 大浦軍は出陣した。

 第一陣は大光寺より南西の館田口に乳井らが七百。
 第二陣は南東の唐竹山に小笠原ら八百。
 第三陣の五百は北に座し、田舎館千徳からの援軍を遮断。

 そして本陣の千兵は大光寺より真西に位置する館田林に置かれた。兼平や森岡、八木橋らもここにいる。

 遠くより大光寺を包囲するに至ったが、城へ向かおうとすると、田が広がっている。水で満たされ、泥で足がとられることだろう。
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