津軽藩以前

かんから

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長子信建、出生 天正二年(1574)夏

亀裂 17-2

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 “ねえ……あなたが殺したの”

 
 戌姫は為信に問う。

 
 “そんなはずなかろう。殺したのは兼平だ”

 “わかってるわ……そんなこと”

 
 滝本の言葉……。もしや為信は、兼平を使って二子を殺させたのか。

 せめて、滝本はそう思っている。間者からの情報によると、為信に二子を殺そうという企みはあったらしい。このことを公言すれば、大浦家は大混乱だ。為信もただで済まない。

 滝本は事の次第を、山を越えて三戸の南部信直に報告。亡き大光寺の従兄弟、北信愛にも伝えられた。

 当然ながら心象は悪化する。特に信愛は、為信が大光寺を殺したと疑いを強めた。一方で信直には、まだ信じたい気持ちがある。

 
 ……疑心暗鬼。秋の収穫を終え、冬に入る。戦は起こらぬまま、新年も迎える。

 当然、滝本は大浦家にも “為信、疑い深し” との一報を入れていた。しかし目論見ははずれ、ほとんどの家来はそれを信じない。

 なぜなら、当日も “津軽郡代” に関する話し合いがなされていた。鼎丸様を大浦家当主とし、為信は郡代になり新しい家を興す……二子を殺す理由がないのだ。兼平という気違いが起こした事故でしかない。

 ……一方で森岡は、無言の抗議を行う。彼のことを詳しく言うと名はのぶはるといい、息子は四人いる。その誰かに跡を継がせ、隠居しようと決意した。のぶもとという人物が四人の中から選ばれ、大浦家に仕えるに至る。

 この森岡信元、兼平綱則、そして武者修行中の小笠原信浄。三人のことを大浦三家老と呼ぶのは後の話。

 
 とにかく、滝本の目算は崩れた。まったく大浦家中は混乱しない。まとまっている。

 ……ならば、次の策を講ずるまで。

 為信よ、死ねばいい。罪を償え。
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