津軽藩以前

かんから

文字の大きさ
上 下
75 / 105
大千同盟 元亀二年(1571)晩夏

命乞い 15-4

しおりを挟む
 八木橋の続けざまに話す様を見て、隣の森岡は急に怒鳴った。

 「八木橋。殿が話すなと申したではないか。少しは慎め。」

 頭の回ることは認めるが、殿には殿のお考えがあるのだ。森岡は八木橋を諭す。八木橋はというと、元はお前が私に話を振ったんだろうと思いながらも、とりあえずは口をおさえた。

 
 森岡はため息をつく。そして向かいに座る沼田へ問うた。お前はどう思うと。沼田は一回だけ礼をし、ゆっくりと話し始めた。

 「大浦家は大きい存在になりました。……偶然にも騒動を治め、旧石川領を併せた。このようなときです。独立どうこうと申すよりも、周りをもうすこし見るべきかと。」

 周り……。

「はい。特に新当主がどう思われているか。不穏な動きがあるなしに関わらず、旧領の返還を求めて来たらどうなさいます。」

 南部信直は南部の新しい当主。彼の一存ですべてが決まる。もし彼が為信を倒せと号令したら、自らは動かなくても孤立は免れない。滝本だけでなく、立場復活の機会だとして千徳も攻めてこよう。例え津軽統一を進めようとしたところで、四面楚歌ではきつい。

 ここで為信が口を出す。

「沼田の言うとおりだ。信直公がどうお考えであるか、今一度確かめる必要はあるな。千徳のことよりも大事なことだ。」

 “八木橋、行ってみるか”

 八木橋は“私ですか”と驚く。本来なら兼平が適任だが、今は臥せっておる。森岡はこのようなことは苦手だろう。お主だからこそ、頼めることだ。

 彼はしばらく黙ったままだったが……隣の森岡に肩を叩かれた。すでに怒ってはいない。少しだけ笑顔で、まるで“行ってこい”と言わんばかりの顔だった。

 かくして、八木橋は信直のいる三戸へ向かうことになった。千徳の件は明日にするとして、話し合いをお開きにしようとしたその時。家来の一人が外から駆けてきた。

 「千徳政氏様が、自ら参上しております。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

北海帝国の秘密

尾瀬 有得
歴史・時代
 十一世紀初頭。  幼い頃の記憶を失っているデンマークの農場の女ヴァナは、突如としてやってきた身体が動かないほどに年老いた戦士トルケルの側仕えとなった。  ある日の朝、ヴァナは暇つぶしにと彼が考えたという話を聞かされることになる。  それは現イングランド・デンマークの王クヌートは偽物で、本当は彼の息子であるという荒唐無稽な話だった。  本物のクヌートはどうしたのか?  なぜトルケルの子が身代わりとなったのか?  そして、引退したトルケルはなぜ農場へやってきたのか?  トルケルが与太話と嘯きつつ語る自分の半生と、クヌートの秘密。  それは決して他言のできない歴史の裏側。

【完結】永遠の海賊 エルメンヒルデ (海賊令嬢シリーズ3)

SHOTARO
歴史・時代
【第2部】の続編ですが、時間軸が戻りましたので、新しい作品として投稿します。 英西戦争直前、女海賊団に新たなメンバーが加わった。 名前は、エルメンヒルデ。 彼女は、自身の素性を話すことが出来ない。 何故なら、素性を話すと「殺す」と祖父母から脅されているからだ。 しかし、彼女は自由な生き方、海賊を選らぶ。 家を捨て、名前を捨て、家族と別れ、海賊として生きる彼女の末路は?

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

復讐の芽***藤林長門守***

夢人
歴史・時代
歴史小説の好きな私はそう思いながらも一度も歴史小説を書けず来ました。それがある日伊賀市に旅した時服部ではない藤林という忍者が伊賀にいたことを知りました。でも藤林の頭領は実に謎の多い人でした。夢にまで見るようになって私はその謎の多い忍者がなぜなぞに覆われているのか・・・。長門守は伊賀忍者の世界で殺されてしまっていて偽物に入れ替わっていたのだ。そしてその禍の中で長門守は我が息子を命と引き換えに守った。息子は娘として大婆に育てられて18歳になってこの謎に触れることになり、その復讐の芽が膨らむにつれてその夢の芽は育っていきました。ついに父の死の謎を知り茉緒は藤林長門守として忍者の時代を生きることになりました。

アユタヤ***続復讐の芽***

夢人
歴史・時代
徳川に追われた茉緒たちは大海を超えて新天地に向かいます。アユタヤに自分たちの住処を作ろうと考えています。これは『復讐の芽***』の続編になっています。

処理中です...