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万次党、従属 元亀二年(1571)夏
運の強さ 14-2
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「戦は、勝つ為にするものです。」
政栄は信直を制した。信直は “何をいまさら” と歯向かうが、そのまま政栄は続けた。
「相手は大軍を擁し、必ず油断があります。みなされ。本陣を敵の目前に置くなど、なんたること。それに櫛引八幡は木々に囲まれ、見通しが悪い。」
“よい機会ではありませぬか”
それも一案だとして、信直は政栄へ任せた。死ぬ刻が今か夜かの違いだけ。試しに彼の言う事を聞いてみようと。
かくして、六月凶日。信直と八戸勢は櫛引八幡に攻め込む。
九戸らは酒を呑んでいた。敵は小勢、もう少しで信直を差し出すに違いない。兵らにも前祝いさせ、唄や踊りなどをさせた。輝く月の元、勝ちに酔いしれる……。すると、小雨が降ってきた。屋根のあるところを探し求め、人はばらける。
竹藪に隠れるは野兎。杉の枝に休まるは梟。突如上がった鬨の声に驚き慌てる。源氏代々の神を祀るこの場所は、赤く染められていく。
武具をうち捨て、命かながらに逃げてゆく。九戸勢は勝利目前にして、大敗を喫した。桶狭間の如く大将の首はないものの、十分である。
信直と八戸勢はそのまま夜を駆け、日が昇るころに三戸を襲った。相手は大軍と勘違いをした九戸勢は戦うことをせず、各々離散した。城内に残るは……病床の南部晴政。外の異変に気付かず、己の痛みに耐えるのみ。そこへ信直が姿を現した……。
晴政は目をかっと開き、突如現れた信直を凝視する。信直はにやついた。次第に、笑いが込み上がる。ああ、殺そうか殺すまいか。すべての因がここにある。
……津軽に南部晴政死去の報がもたらされたのは、翌年の元亀三年(1572)になってからである。信直がこの時に殺めたのか、はたまた苦しみ続けさせることを選んだのかは定かではない。
信直勢は続けて九戸城へ進撃する。味方の兵は増し、一万を優に超えた。
政栄は信直を制した。信直は “何をいまさら” と歯向かうが、そのまま政栄は続けた。
「相手は大軍を擁し、必ず油断があります。みなされ。本陣を敵の目前に置くなど、なんたること。それに櫛引八幡は木々に囲まれ、見通しが悪い。」
“よい機会ではありませぬか”
それも一案だとして、信直は政栄へ任せた。死ぬ刻が今か夜かの違いだけ。試しに彼の言う事を聞いてみようと。
かくして、六月凶日。信直と八戸勢は櫛引八幡に攻め込む。
九戸らは酒を呑んでいた。敵は小勢、もう少しで信直を差し出すに違いない。兵らにも前祝いさせ、唄や踊りなどをさせた。輝く月の元、勝ちに酔いしれる……。すると、小雨が降ってきた。屋根のあるところを探し求め、人はばらける。
竹藪に隠れるは野兎。杉の枝に休まるは梟。突如上がった鬨の声に驚き慌てる。源氏代々の神を祀るこの場所は、赤く染められていく。
武具をうち捨て、命かながらに逃げてゆく。九戸勢は勝利目前にして、大敗を喫した。桶狭間の如く大将の首はないものの、十分である。
信直と八戸勢はそのまま夜を駆け、日が昇るころに三戸を襲った。相手は大軍と勘違いをした九戸勢は戦うことをせず、各々離散した。城内に残るは……病床の南部晴政。外の異変に気付かず、己の痛みに耐えるのみ。そこへ信直が姿を現した……。
晴政は目をかっと開き、突如現れた信直を凝視する。信直はにやついた。次第に、笑いが込み上がる。ああ、殺そうか殺すまいか。すべての因がここにある。
……津軽に南部晴政死去の報がもたらされたのは、翌年の元亀三年(1572)になってからである。信直がこの時に殺めたのか、はたまた苦しみ続けさせることを選んだのかは定かではない。
信直勢は続けて九戸城へ進撃する。味方の兵は増し、一万を優に超えた。
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