62 / 105
万次党、従属 元亀二年(1571)夏
家来を斬る 13-1
しおりを挟む
“救民” の旗を掲げる科尻と鵠沼の軍勢は大光寺城へ攻めかかる。千徳の援軍も加わり、石川城の如く落ちるかと思われた。現に小山内氏の和徳《わっとく》城も同様に陥落した。
しかし大光寺の遺臣の滝本重行という人物は、武勇知略共に長けていた。石川城や和徳城の二の舞になるものかと、家来の家族らをすべて城内に入れる。彼らは足手まといどころか、兵士に準ずる働きをさせた。城へ続く橋に木の小枝を置かせたり、石を敵兵に投げたりする。ましてや夜中も続くので、とてもじゃないが攻めづらい。
それでも次の朝までに落としてしまおうと、反乱軍は猛攻を続けた。しかし……目論見は崩れる。
“大浦為信、生存”
この報がもたらされた。まさか……堀越にいた主だった者は、毒殺したはずだぞ。攻め入った兵士らも確認している。
本来なら、為信は死して主筋はこちらに在り。戦わずして大浦家の兵を従わせるつもりだった。
ここで千徳は提案する。一旦は石川城に戻って様子を見るべきだと。鼎丸と保丸はあなたがたの手元にある。依然として形勢は有利なままだ。
こうして、“救民” の軍勢は石川城に、千徳軍は浅瀬石城へ戻っていった。
翌朝、山を越え糠部三戸に急使が到着。夜通し険しい道を抜け、息を切らしながらに伝えられた。
“津軽郡代石川政信、毒死”
九戸政実は手を叩き、大いに喜んだ。これで津軽の軍勢はこちらに攻めてこれまい。今こそ八戸を攻め、信直の息を止める。
全軍に進撃を命じた。当主南部晴政の娘婿で政実の弟、九戸実親を大将に一万の兵が進む。
……三戸に放たれていた、八戸政栄の密偵。この九戸派の動きを察知する。信直に、再び哀しい報告がなされた。
“妻だけでなく、弟も奪われた”
心の闇は、すべてを覆いつくす。
再び、鬼と化した。
しかし大光寺の遺臣の滝本重行という人物は、武勇知略共に長けていた。石川城や和徳城の二の舞になるものかと、家来の家族らをすべて城内に入れる。彼らは足手まといどころか、兵士に準ずる働きをさせた。城へ続く橋に木の小枝を置かせたり、石を敵兵に投げたりする。ましてや夜中も続くので、とてもじゃないが攻めづらい。
それでも次の朝までに落としてしまおうと、反乱軍は猛攻を続けた。しかし……目論見は崩れる。
“大浦為信、生存”
この報がもたらされた。まさか……堀越にいた主だった者は、毒殺したはずだぞ。攻め入った兵士らも確認している。
本来なら、為信は死して主筋はこちらに在り。戦わずして大浦家の兵を従わせるつもりだった。
ここで千徳は提案する。一旦は石川城に戻って様子を見るべきだと。鼎丸と保丸はあなたがたの手元にある。依然として形勢は有利なままだ。
こうして、“救民” の軍勢は石川城に、千徳軍は浅瀬石城へ戻っていった。
翌朝、山を越え糠部三戸に急使が到着。夜通し険しい道を抜け、息を切らしながらに伝えられた。
“津軽郡代石川政信、毒死”
九戸政実は手を叩き、大いに喜んだ。これで津軽の軍勢はこちらに攻めてこれまい。今こそ八戸を攻め、信直の息を止める。
全軍に進撃を命じた。当主南部晴政の娘婿で政実の弟、九戸実親を大将に一万の兵が進む。
……三戸に放たれていた、八戸政栄の密偵。この九戸派の動きを察知する。信直に、再び哀しい報告がなされた。
“妻だけでなく、弟も奪われた”
心の闇は、すべてを覆いつくす。
再び、鬼と化した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
信長最後の五日間
石川 武義
歴史・時代
天下統一を目前にしていた信長は、1582年本能寺で明智光秀の謀反により自刃する。
その時、信長の家臣はどのような行動をしたのだろう。
信長の最後の五日間が今始まる。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】
しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。
歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。
【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】
※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。
※重複投稿しています。
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614
小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
パパー!紳士服売り場にいた家族の男性は夫だった…子供を抱きかかえて幸せそう…なら、こちらも幸せになりましょう
白崎アイド
大衆娯楽
夫のシャツを買いに紳士服売り場で買い物をしていた私。
ネクタイも揃えてあげようと売り場へと向かえば、仲良く買い物をする男女の姿があった。
微笑ましく思うその姿を見ていると、振り向いた男性は夫だった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる