津軽藩以前

かんから

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堀越騒動 元亀二年(1571)春

死に賜う 12-4

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 夕暮れ、日は落ちかける。為信は一人、厠で気を取り戻す。

 体のあちこちが痛い。それでも少しばかりは楽になったか。

 大広間へ向かおうと、厠の戸を開ける。


 ……どす黒い血で、壁に弧が描かれる。これは刀の先端から、勢いよく飛ばされたか。廊下には、手ぶらの人が倒れている。それも一人ではなく、二人、三人……。傷は深く、骨まで見える。

 
 ここに、生きている者はいない。

 大広間では、名士らが哀れな姿となっていた。為信は大光寺の体を起こし、顔を覗いた。灰色に変わり果て、口周りに血がこびりついている。……毒のせいか。政信も同じだった。


 このようなこと、誰がした。

 何のために。

 何の恨みがあって。


遠くで、足音がした。為信は部屋の奥まったところに身を隠し、刀の鞘に手を当てる。

 
 誰か来る。

 
 襖の向こうで、足は止まった。

 敵か、味方か。

  …………



 ……いかつい顔の男が、武具を身に着けた姿で現れた。その場で片膝をつき、為信に一礼をする。

 「よくぞ、ご無事で。」

 為信は問う。薬師は答えた。

 「生きていると、信じておりました。」

……今は逃げましょう。早く大浦城へ。家来が心配しております。
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