津軽藩以前

かんから

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野崎村焼討 元亀一年(1570)初冬

密談 9-2

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 久慈くじ信義のぶよしは為信の兄である。彼の手紙は秘密裏に大浦城へ届けられた。為信は大変驚き、夜遅くに兼平と森岡を呼び寄せる……。

 ろうそくの火は揺れながら、燃え続ける。話す人の反対の方へ煙がたなびくかと思えば、もう一人の強い息遣いでまた別の方へ流れる。

 為信はいう。

 「……悩ましい。」

 九戸をとるか、信直の下につくか。大浦家の行く末が決まる。判断をたがえれば、家は滅びる……婿殿にとって、荷が重い。

 兼平が口を開く。

 「恐らく、他の家にも誘いがありましょう。」

 津軽に石川家が入って日は浅い。石川高信公は既に亡く、次子の政信が新たに郡代となった。もし先代が存命であれば、軍を率いて助けに行っただろう。ただし政信公はそこまで至らず。今回のことで彼の決断力の鈍さが露呈した。

 諸氏は情勢をどう考えているだろうか。……石川家の下、津軽で大きな力を持つのは主に三家ある。大光寺、千徳せんとく、そして大浦。大光寺は石川家随一の重臣、千徳は穀倉地帯を有する。大浦家は港から金銭の収入が多い。この三氏のいずれかが九戸につけば、均衡は一気に崩れるだろう。

 
……ここで森岡は、兼平に耳打ちをした。兼平は少し戸惑ったようだったが、話すことを許す。

 「殿、これまで通り信直様につくのがいいと存じます。」

 
 為信はいぶかしむ。森岡は続けた。

 「実は……私と兼平は、見ていたのです。鹿角合戦で殿が信直様をお助けになり、手柄を譲ったことを。」

 兼平もうなずいている。為信は困惑こそしたが、すぐに真顔に戻した。二人に問う。

 「他の者に知れているのか。」

 兼平は即座に嘘を返す。

 「いえ、二人だけの秘密にて。」
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