津軽藩以前

かんから

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屋裏の変 元亀一年(1570)秋

毘沙門堂 8-4

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 夜、東から吹く風が寒い。晴政は馬に跨り、歩いて従う兵らを束ねる。
 城を下ると、三戸の町がある。その真ん中を丁度割くように馬淵川が流れる。兵らは堂々と民家を横に通り、橋を音立てながら渡った。民衆は何事かと布団をはねのけ、小窓より軍勢を覗く。誰もがこれから起こるであろう大きなことを予感した。
 町を通り過ぎた。これより石段を登り切ると、毘沙門堂。相手は小勢、せいぜい五十人。しかも武装しておらず、不意打ちとなろう。

 晴政は兵らに一面に広がるように指示を出す。兵らは丘を囲むように位置につく。

 ……皆々、頂きを目指す。


 ……

 晴政の軍勢は近づく。毘沙門堂の兵らは足音に耳を立てる。林の合間を、白鶴の旗が見えてくる。

 信直は、火縄に弾と火薬を込める。ほかの兵も同様にし、小窓より晴政がくるであろう正面へ構える。

 ……一頭の大きな馬が、男を乗せて現れた。かつてより肥え太り、酒の臭いがこちらまで漂ってくる。

 男の後ろに、大勢の兵らが付き従っている。もう少し、もう少し……。

 信直は、目で合図を送った。

 十丁もの激しい爆音が、夜空に響く。初めて聞く音に、馬は前足を高く上げた。大将は崩れ落ち、その場に土をつく。周りの兵らが慌てて駆け寄っていく。大将は、“大丈夫” とでも言ったのだろうか、兵は気を取り直しこちらに迫る。

 すると、ふたたび爆音。毘沙門堂より放たれた。前に進み出た兵は、無残に倒れていく。これが好機とばかりに、槍や刀を持つ味方は堂より出る。乱戦が始まった。

 信直は堂より出でず、ひたすら大将の晴政の様子をうかがう。馬に跨ろうとするも足を引きずっているか、挫いたのだろう。

 動けないか。今こそ、天の代わりに罰を与える。彼の銃口は、晴政を向く。途中で目の前を横切る敵や味方、一直線に当たる時を狙う……三、二、一……放つ。

 その弾は、晴政の右のふとともを貫いた。
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