40 / 105
屋裏の変 元亀一年(1570)秋
毘沙門堂 8-4
しおりを挟む
夜、東から吹く風が寒い。晴政は馬に跨り、歩いて従う兵らを束ねる。
城を下ると、三戸の町がある。その真ん中を丁度割くように馬淵川が流れる。兵らは堂々と民家を横に通り、橋を音立てながら渡った。民衆は何事かと布団をはねのけ、小窓より軍勢を覗く。誰もがこれから起こるであろう大きなことを予感した。
町を通り過ぎた。これより石段を登り切ると、毘沙門堂。相手は小勢、せいぜい五十人。しかも武装しておらず、不意打ちとなろう。
晴政は兵らに一面に広がるように指示を出す。兵らは丘を囲むように位置につく。
……皆々、頂きを目指す。
……
晴政の軍勢は近づく。毘沙門堂の兵らは足音に耳を立てる。林の合間を、白鶴の旗が見えてくる。
信直は、火縄に弾と火薬を込める。ほかの兵も同様にし、小窓より晴政がくるであろう正面へ構える。
……一頭の大きな馬が、男を乗せて現れた。かつてより肥え太り、酒の臭いがこちらまで漂ってくる。
男の後ろに、大勢の兵らが付き従っている。もう少し、もう少し……。
信直は、目で合図を送った。
十丁もの激しい爆音が、夜空に響く。初めて聞く音に、馬は前足を高く上げた。大将は崩れ落ち、その場に土をつく。周りの兵らが慌てて駆け寄っていく。大将は、“大丈夫” とでも言ったのだろうか、兵は気を取り直しこちらに迫る。
すると、ふたたび爆音。毘沙門堂より放たれた。前に進み出た兵は、無残に倒れていく。これが好機とばかりに、槍や刀を持つ味方は堂より出る。乱戦が始まった。
信直は堂より出でず、ひたすら大将の晴政の様子をうかがう。馬に跨ろうとするも足を引きずっているか、挫いたのだろう。
動けないか。今こそ、天の代わりに罰を与える。彼の銃口は、晴政を向く。途中で目の前を横切る敵や味方、一直線に当たる時を狙う……三、二、一……放つ。
その弾は、晴政の右のふとともを貫いた。
城を下ると、三戸の町がある。その真ん中を丁度割くように馬淵川が流れる。兵らは堂々と民家を横に通り、橋を音立てながら渡った。民衆は何事かと布団をはねのけ、小窓より軍勢を覗く。誰もがこれから起こるであろう大きなことを予感した。
町を通り過ぎた。これより石段を登り切ると、毘沙門堂。相手は小勢、せいぜい五十人。しかも武装しておらず、不意打ちとなろう。
晴政は兵らに一面に広がるように指示を出す。兵らは丘を囲むように位置につく。
……皆々、頂きを目指す。
……
晴政の軍勢は近づく。毘沙門堂の兵らは足音に耳を立てる。林の合間を、白鶴の旗が見えてくる。
信直は、火縄に弾と火薬を込める。ほかの兵も同様にし、小窓より晴政がくるであろう正面へ構える。
……一頭の大きな馬が、男を乗せて現れた。かつてより肥え太り、酒の臭いがこちらまで漂ってくる。
男の後ろに、大勢の兵らが付き従っている。もう少し、もう少し……。
信直は、目で合図を送った。
十丁もの激しい爆音が、夜空に響く。初めて聞く音に、馬は前足を高く上げた。大将は崩れ落ち、その場に土をつく。周りの兵らが慌てて駆け寄っていく。大将は、“大丈夫” とでも言ったのだろうか、兵は気を取り直しこちらに迫る。
すると、ふたたび爆音。毘沙門堂より放たれた。前に進み出た兵は、無残に倒れていく。これが好機とばかりに、槍や刀を持つ味方は堂より出る。乱戦が始まった。
信直は堂より出でず、ひたすら大将の晴政の様子をうかがう。馬に跨ろうとするも足を引きずっているか、挫いたのだろう。
動けないか。今こそ、天の代わりに罰を与える。彼の銃口は、晴政を向く。途中で目の前を横切る敵や味方、一直線に当たる時を狙う……三、二、一……放つ。
その弾は、晴政の右のふとともを貫いた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
呂公伝 異聞「『奇貨』居くべし」
itchy_feet
歴史・時代
史記の「奇貨居くべし」の故事を下敷きにした歴史小説になります。
ときは紀元前260年ごろ、古代中国は趙の国
邯鄲の豪商呂不韋のもとに父に連れられ一人の少年が訪れる。
呂不韋が少年に語った「『奇貨』居くべし」の裏にある真実とは。
成長した少年は、『奇貨』とは一体何かを追い求め、諸国をめぐる。
はたして彼は『奇貨』に出会うことができるのか。
これは若き呂公(呂文)が成長し、やがて赤き『奇貨』に出会うまでのお話。
小説家になろうにも重複投稿します。
【完結】永遠の海賊 エルメンヒルデ (海賊令嬢シリーズ3)
SHOTARO
歴史・時代
【第2部】の続編ですが、時間軸が戻りましたので、新しい作品として投稿します。
英西戦争直前、女海賊団に新たなメンバーが加わった。
名前は、エルメンヒルデ。
彼女は、自身の素性を話すことが出来ない。
何故なら、素性を話すと「殺す」と祖父母から脅されているからだ。
しかし、彼女は自由な生き方、海賊を選らぶ。
家を捨て、名前を捨て、家族と別れ、海賊として生きる彼女の末路は?
復讐の芽***藤林長門守***
夢人
歴史・時代
歴史小説の好きな私はそう思いながらも一度も歴史小説を書けず来ました。それがある日伊賀市に旅した時服部ではない藤林という忍者が伊賀にいたことを知りました。でも藤林の頭領は実に謎の多い人でした。夢にまで見るようになって私はその謎の多い忍者がなぜなぞに覆われているのか・・・。長門守は伊賀忍者の世界で殺されてしまっていて偽物に入れ替わっていたのだ。そしてその禍の中で長門守は我が息子を命と引き換えに守った。息子は娘として大婆に育てられて18歳になってこの謎に触れることになり、その復讐の芽が膨らむにつれてその夢の芽は育っていきました。ついに父の死の謎を知り茉緒は藤林長門守として忍者の時代を生きることになりました。
【武士道ソウル】~弥助の子孫である仁と坂本龍馬の最強コンビ!『土佐勤王党』&『新選組』と手を組み政府軍に戦いを挑む!~【完】
みけとが夜々
歴史・時代
明治維新から数年が経った頃、急速に近代化の波に飲み込まれていた日本。
廃刀令が敷かれ、武士たちはその存在意義を問われていた。
戦国時代、織田信長に仕えていたという黒人武士の弥助の子孫である『伊作 仁』は、ある日『坂本 龍馬』と出会い着実に武士道を極めていく。
日本政府は近代国家を目指し、強力な軍隊を育成するため『欧米の臥龍』とも称されたグレン・マッカーサーを雇った。
かつて、倒幕運動を行っていた坂本龍馬はマッカーサーに目を付けられる。
東京で再会した『土佐勤王党』や『新選組』と手を組み、政府軍との戦いに闘志を燃やす龍馬と仁。
政府軍1万に対し、反乱軍1000名。
今、侍の魂を駆けた戦いの火蓋が切って落とされた━━━━━━。
(C)みけとが夜々 2024 All Rights Reserved
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる