津軽藩以前

かんから

文字の大きさ
上 下
38 / 105
屋裏の変 元亀一年(1570)秋

毘沙門堂 8-2

しおりを挟む
 中秋の薄暗い空の日。南部鶴千代はわずか三ヶ月でこの世を去った。亡くなる間際には “晴はるつぐ” の名が贈られ、父晴政の意を受けて南部家第二十五代当主の座も授けられた。たった二日間の家督である。
 流行り病にかかったらしく一旦は熱も治まったが、体の至る所に細かな吹き出物が生じた。熱も再び出始めたころには喚く力もなくなり、誰もが最後だと悟った。

 晴政は呆然と立ち尽くす。この子のために、すべてを捧げてきた。何ゆえに天は奪うのだと。

 ……ふと、思い出す。民の間でされていた噂を。

 
 “疫病は、妻を奪われた信直の祟り”

 
 九戸政実、傍らで座していた。晴政とその側室の彩子に、決断を促したのだ。

 
 “信直を、討ちましょう”

 
 晴政は晴継の葬儀にかこつけて、信直を三戸に呼ぶことにした。田子にいる信直の元に知らせが届く。
信直は書状を読み終えると、下の方にそのまま投げた。

 「行かざるを得まい。皆の者、支度をせよ。」

 本当は行きたくない。今は娘婿ではなく、義父でもない。一家来にすぎぬ。そうさせたのは晴政自身だし、このたびのことは因果応報のようにも思えた。してはいけないが、笑みがこぼれてくる。家来らもそれを止める者はいない。

 そのようなときに、北信愛の家来と名乗る者が参上した。このことは内密にしてほしいという。

 
 “南部晴政公、田子信直を寝所の毘沙門堂にて討ち取る計あり”

 信直は驚かない。すでに何があっても動じない。一応、晴政がそこまでへ至った訳を問うた。

 「はい。娘の翠様に見放され、赤子の晴継様も去ってしまった。そうさせたのは信直の呪いだから、奴を葬り去るとの由でございます。」

 ……聞き捨てならぬ言葉があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】

しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。 歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。 【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】 ※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。 ※重複投稿しています。 カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614 小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

パパー!紳士服売り場にいた家族の男性は夫だった…子供を抱きかかえて幸せそう…なら、こちらも幸せになりましょう

白崎アイド
大衆娯楽
夫のシャツを買いに紳士服売り場で買い物をしていた私。 ネクタイも揃えてあげようと売り場へと向かえば、仲良く買い物をする男女の姿があった。 微笑ましく思うその姿を見ていると、振り向いた男性は夫だった…

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

処理中です...