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鹿角合戦 永禄十二年(1569)秋
南部の跡継ぎ 4-1
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その年の秋は豊作だった。南部軍は兵糧不足の心配することなく、予定通り羽州の鹿角へ兵を進めた。
津軽からは郡代石川高信の次男石川政信が大浦為信ら含む総勢五千を率いて、途中で長男の田た子ご信直二千と合流し、七千が花輪に布陣。糠部からは当主の南部晴政自ら出陣し、九戸兄弟ら含む総勢六千は高倉山に布陣した。
鹿角の長牛城から見て花輪は北に、高倉山は東に位置する。二方向から攻める体制が築かれたのである。
長牛城は鹿角の重要な拠点だけあって、大きな土堀で囲ってある。ただし南部安東両氏の取り合いが続き、しっかりとした防衛機能を固めきれていない。それ故に城主である大高氏はすぐさま、主君である安東氏に援軍を要請。まだ姿を現していないが、最低でも五千以上の兵を率いてくるのではないかと思われた。
南部軍が各々布陣した次の日、早速軍議が高倉山で開かれた。花輪に布陣する田子信直や石川政信は勿論、末席に為信も座した。
このたびの戦に郡代石川高信は出陣していない。公には津軽に目を光らせておくためとされたが、実のところ体の具合がよくない。肝の臓がやられているとの噂であった。
天候は快晴、秋ではあるがそんなに寒くない頃合いである。山の上ではすでに色付き始めていた。
諸将は陣中にて椅子に座す。上座の晴政より右手に糠部勢、左手に信直らが並んでいる。ここで晴政は、ある宣言をした。
晴政は言う。
「戦で領国を広めるのは、もちろん我が家が強くなるということ。大変喜ばしい。」
皆、静まり返っている。鳶の鳴き声が大きく聞こえる。
「だが、内憂をなくすのも大切なことだ。……ここ数年、お主らはいがみ合ってきた。」
並びの先頭に座るのは田子信直と九戸実親。両者とも晴政の娘婿であり、男子のいない晴政の後継候補である。
晴政は強く、大きな声で発した。
「城主の首をとった方に、跡継ぎを決めようではないか。」
皆、二人に注目する。初めに信直が口を開く。
「わかり申した。大殿の名に恥じぬよう、手柄をたてて参りましょう。」
続いて実親も、意気揚々と言う。
「安東の援軍が来る前に、かたをつけて御覧に入れましょうぞ。」
両者は言葉を発した後、互いの顔を睨みあった。
津軽からは郡代石川高信の次男石川政信が大浦為信ら含む総勢五千を率いて、途中で長男の田た子ご信直二千と合流し、七千が花輪に布陣。糠部からは当主の南部晴政自ら出陣し、九戸兄弟ら含む総勢六千は高倉山に布陣した。
鹿角の長牛城から見て花輪は北に、高倉山は東に位置する。二方向から攻める体制が築かれたのである。
長牛城は鹿角の重要な拠点だけあって、大きな土堀で囲ってある。ただし南部安東両氏の取り合いが続き、しっかりとした防衛機能を固めきれていない。それ故に城主である大高氏はすぐさま、主君である安東氏に援軍を要請。まだ姿を現していないが、最低でも五千以上の兵を率いてくるのではないかと思われた。
南部軍が各々布陣した次の日、早速軍議が高倉山で開かれた。花輪に布陣する田子信直や石川政信は勿論、末席に為信も座した。
このたびの戦に郡代石川高信は出陣していない。公には津軽に目を光らせておくためとされたが、実のところ体の具合がよくない。肝の臓がやられているとの噂であった。
天候は快晴、秋ではあるがそんなに寒くない頃合いである。山の上ではすでに色付き始めていた。
諸将は陣中にて椅子に座す。上座の晴政より右手に糠部勢、左手に信直らが並んでいる。ここで晴政は、ある宣言をした。
晴政は言う。
「戦で領国を広めるのは、もちろん我が家が強くなるということ。大変喜ばしい。」
皆、静まり返っている。鳶の鳴き声が大きく聞こえる。
「だが、内憂をなくすのも大切なことだ。……ここ数年、お主らはいがみ合ってきた。」
並びの先頭に座るのは田子信直と九戸実親。両者とも晴政の娘婿であり、男子のいない晴政の後継候補である。
晴政は強く、大きな声で発した。
「城主の首をとった方に、跡継ぎを決めようではないか。」
皆、二人に注目する。初めに信直が口を開く。
「わかり申した。大殿の名に恥じぬよう、手柄をたてて参りましょう。」
続いて実親も、意気揚々と言う。
「安東の援軍が来る前に、かたをつけて御覧に入れましょうぞ。」
両者は言葉を発した後、互いの顔を睨みあった。
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