津軽藩以前

かんから

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偽一揆 永禄十二年(1569)正月

岩木山、雪の陣 2-4

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「安心せい。理右衛門の金は、参加した者ら全てに平等に配る。約束だ。これで皆、ひもじい思いをせずにすむな。」

 そう万次は言うと、腹の底から大きく笑った。

 ……正直、甘く見ていた。後悔もしている。他国者と在来の民の対話など……できるものか。為信がそう思っていると、面松斎は小声で言ってくる。

「他国者とて、悪い人間ばかりではありませぬぞ。」

 ……そうだ。そうだった。ここにいる。……それにここには他国者だけではない、在来の民でも同じように振る舞うやつもいる。荒れた奴らが他国者に多いだけ。


 戦国の梟雄 “津軽為信” になるのは、もう少し先である。


 為信は途中まで面松斎と山を下り、そこからは雪しかない原野を進む。次第に雲は薄くなり、日が差してきた。雪もやんだ。地面が、輝く。

 陣に戻る。白い幕を手で上に除け、兵士らの中に入る。家来衆とは違い、兵士たちは為信の帰還を素直に喜んでくれた。なんだかんだで我らの殿さまであろうから。

 為信は気を取り直し、大声で叫んだ。

「和は成った。一揆勢は今夜中に引き上げる。」

 兵士らは歓声をあげた。早く帰りたい一心だった彼らは、為信の快挙に喜んだ。誰も、こんな寒い中外にいたくない。
 千人のその雄叫びは、家来衆をも驚かせた。森岡などはたいそう悔しがり、“一揆勢は嘘をついて、こちらを油断させようとしていないか” と勘繰る始末。
 為信の大浦軍は、今夜は付陣したままとし、明日の朝に岩木山の大寺を接収。確認が取れ次第、引き返す運びとなった。


 しかし……異変が起きたのは夜。兵士らがうとうととし始めたころである。

 大浦軍を遥かに凌ぐ人影が、東南より近づく。……あれは一揆勢か。

 ……いや違う。
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